2020/11/5

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「横山幸雄× ベートーヴェン―ピアノ・ソナタ全32曲連続演奏会に寄せて」後編

「ベートーヴェンに会いにくる、その楽しみと喜びをぼくとともに味わってください」

初期のソナタはベートーヴェンの感情の起伏が見えてとても面白い

今回の『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全32曲連続演奏会』は、第1日目のピアノ・ソナタ第1番からスタートし、2日目のフィナーレを飾るピアノ・ソナタ第32番まで、第11部構成となっている。もちろん一部だけ聴くこともできるが、通して聴くことも可能である。そのなかで、とりわけ興味深いのは初期のピアノ・ソナタが演奏されること。こうしたベートーヴェンの若き時代の作品をじっくり聴くことができる、貴重な機会となる。

「確かに、ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタを続けてリサイタルで演奏するということはありませんね。でも、初期のソナタはいきなりエネルギーがあふれ出したり、実験的な部分が顔をのぞかせたり、かと思うと優雅な曲想が登場したりと、ベートーヴェンの感情の起伏が見えてとても面白いと思います。それが中期から後期になるとベートーヴェンの人生がより濃厚に映し出されたり、作風も幾重にも変容していきます。
ベートーヴェンは特出した個性の持ち主でしたし、音楽家の社会的なあり方まで変えてしまった人物です。その人生には多くの謎が潜んでいますが、それもまたベートーヴェンの奥深い魅力だと思います。聴いてくださる方は、そんなベートーヴェンという人間に会いにくる、そうした意味合いをもつコンサートにしたいと思っています」

有名な作品ばかりではなく、あまり演奏されないソナタにも触れて新たな魅力を味わってほしい

横山幸雄は楽譜の内奥に肉薄し、作曲家の魂に寄り添うことをモットーとしている。

「今回はふだんあまり演奏会では聴くことができないソナタも含まれています。譜読みをしていくと、ベートーヴェンはここでどうしてこの曲を書いたのだろうかと疑問を抱いたり、不思議に思ったりすることもあります。それがまた謎であり、興味をそそられる面でもあります。今回は、有名な作品ばかりではなく、そうしたソナタにも触れて新たな魅力を味わってほしいですね」

初期のソナタに関しては、第5番、第6番、第9番、第10番などはなかなか演奏する機会がなかったが、今回は全曲演奏ということで、こうした作品も披露される。

「もちろん全曲を通して聴いていただくとベートーヴェンの人生が俯瞰でき、作曲の経緯にも触れることができ、生きざまを味わうことが可能になります。音楽を聴くというのは、さきぼどもいいましたが、その作曲家に会いにくることだと思うんです。ベートーヴェンに会いにくる、その楽しみと喜びをぼくとともに味わってください」

2日間のリサイタルでは、ベートーヴェンの魂に肉薄する横山幸雄の渾身のピアニズムが全開する。その真意を受け取りたい。

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

「横山幸雄× ベートーヴェン―ピアノ・ソナタ全32曲連続演奏会に寄せて」
前編はこちらから

◆横山幸雄のプロフィールは下記をご参照ください。
https://www.japanarts.co.jp/artist/yukioyokoyama/

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