2013/10/15
ニュース
来日直前! イルジー・ビエロフラーヴェク(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者)に聞く
Q:マエストロがチェコ・フィルと来日されることを、心から楽しみにお待ちしています。マエストロは、2012年にチェコ・フィル首席指揮者に復帰されました。世界中のオーケストラを指揮されているマエストロだからこそわかるチェコ・フィルの魅力についてお話いただけますか?
ビエロフラーヴェク(以下、B):チェコ・フィルはその独特な色彩豊かな音色に大きな特徴あり、チェコ作曲家の音楽と密接な関係を保っています。チェコ音楽のメロディを心の源泉から溢れ出させる演奏がとても魅力的です。
と同時に、チェコの曲のみならず、世界のどの作曲家の曲を演奏しても、オーケストラの音質の高さ、音色の豊かさ、曲の表現力、弦楽器と管楽器の見事なバランス、どれをとっても超一流です。また、楽団員の99%がチェコ人から構成されている事実を見ても、オーケストラの土台となっているのがチェコ人音楽家たちであり、チェコという国、チェコ国民を代表するオーケストラと言えます。
また、チェコ・フィルは、伝統を重んじると共に、現代曲にも積極的に取り組んでいます。その意味で、大変創造的なオーケストラでもあります。昔からの伝統の上に、若い魂を持ち続けているその事実が、チェコ・フィルの魅力だと思います。
Q:2013/2014の新しいシーズンが始まったばかりです。ヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」をメインに、バーンスタイン、ウィドマン作品のチェコ初演、ショスタコーヴィチと多彩なプログラムでした。ここにも世界を知っているマエストロの意図があるのでしょうか?
B:もちろん私の意図が入っています。曲目をご覧になれば、プログラミングが、伝統的なものではない事はお分かりになると思います。プログラムの音楽構成の面から見ても大変興味深く、意欲的なプログラムであったと思います。
ヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」は、この曲が20世紀の最高に優れた教会合唱曲の一つであることは誰もが認めるところです。素晴らしいソリスト達、合唱団と共に、非常に満足のいく質の高い演奏を披露でき、聴衆の期待を裏切ることはありませんでした。この曲は、自然発生的な抑えがたい情熱エネルギーにあふれた、人間の心の祈りを表現している作品であり、長い年月を経て再びチェコ・フィルとこの曲を演奏できたことは大きな感慨でした。
シーズン最初のこの演奏会では「グラゴル・ミサ」を含めて、20世紀の作曲家4名の作品を演奏しましたが、それぞれの作品は、独自性が強く、作風が異なっており、独特のオリジナリティが溢れている曲を選びました。聴衆の興味を十分に満足させる構成になっていたと思います。
これからもチェコ・フィルと共に現代曲を含むあらゆる時代の曲に取り組んでチャレンジを続けて行くつもりです。
Q:しかし、やはりマエストロとチェコ・フィルが昨シーズンからスタートしたドヴォルザーク交響曲の全曲演奏会&レコーディングのプロジェクトに、私たちは惹かれます。改めてドヴォルザークに集中的に取り組まれようとした意図をお話いただけますか?
B:オープニングコンサートで比較的新しい20世紀の曲中心のプログラムを組んだからと言って、伝統的な曲を軽んじているわけではありません。チェコの作曲家ドヴォルザークの曲を演奏することは、チェコ・フィルは、自らの使命であるととらえています。これからも機会あるごとにドヴォルザークの作品を演奏し続けますし、模範的な解釈を示しながら、チェコ作曲家の曲の素晴らしさを伝えていくのは、チェコ・フィルの義務です。また、チェコ作曲家の楽曲はチェコ・フィルの重要なレパートリーの一つでもあります。
実際、20-25年前に当時の首席指揮者であるノイマン氏の指揮での全交響曲作品録音の歴史はありますが、その時代から時間もたっていますから、再録音は必要不可欠です。全曲演奏を使命として取り組んでいますが、これはつらい義務ではなく、とても嬉しい責務と言えます。全シンフォニーを演奏する機会を得ることに、誇りと特別な意義を感じています。
Q:またこの1年間、首席指揮者として意識的に取り組まれたことを教えてください。その結果、オーケストラはどのように変化したでしょうか?楽団に起こった変化をどのようにとらえていらっしゃいますか。
B:私とチェコ・フィルの新たな時代の幕開けです。この一年で私とオーケストラが目指した事は、ともに音楽の質を高め、アンサンブルのより高度な調和を目指すことでした。指揮者とオーケストラがともに音を紡ぎ出し、一体感の創造を目指し、互いをより深く理解しあう。これが私とオーケストラが目指した事です。この共同のプロセスは今もまだ現在進行中です。より高いレベルの音楽性、より美しいハーモニーを追求していけば、それは必ず聴衆にも伝わります。
より良い音楽を共に作り出す努力をしていくことは、お互いの喜びです。
Q:インターネットで世界が簡単につながる今、オーケストラの音色(サウンド)にも国際化の流れが顕著です。どこのオーケストラも同じような音がしてきており、おもしろみに欠けるという意見も多くあります。チェコ・フィルも世界的な名門オーケストラであるからこそ、そのような意見にさらされることもあるかと思いますが、国際化とチェコ・フィルならではの音楽について、どのようなお考えをお持ちでしょうか?
B:現在の世界においては、音楽の分野のみならず、あらゆる分野で、すべての情報がどこにいても同時に手に入れられる時代となっています。それにより、音楽の世界もお互いに情報を共有し、より近く繋がることは悪い事ではないと思います。ただそれは、個性を失くしてしまうという事ではありません。
私がチェコ・フィルと努力しているのは、オーケストラが確固たるアイデンティティを支えに、チェコ・フィルならではの特徴的な音の世界、音色を作り上げることです。私たちにとって、オーケストラの独創性を保ち続けることは、最優先の課題です。
Q:今回のツアーでは、今ちょうど共演している河村尚子、そしてこれからリハーサルをされるアフナジャリャンのような、若手アーティストが抜擢されています。彼らには期待なさるのはどのようなことでしょうか?
B:私にとっては、どんな時でも若い才能あふれるソリストの皆さんと共演するのは喜びです。世界の音楽文化を若い時代に体験することで、若い芸術家の方々は、更なるチャレンジの門が開きますし、それと同時に、若い芸術家の方々から曲の解釈に対して、我々も、新たな見方を発見する事もあるからです。
河村さんとは、ラフマニノフを演奏しました。素晴らしい若い才能あふれるピアニストです。チェリストのアフナジャリアンさんとは、彼がプラハまで来てリハーサルを行います。二人との日本での公演を楽しみにしています。
Q:さらにイザベル・ファウストのようなベテランとも共演いただきますが、ファウストさんにはどのような魅力を感じていらっしゃいますか?
B:ファウストさんとは、長い間の知り合いであり,良きパートナーです。何度も共演していますが、技巧、表現力どれをとっても、信じがたいほどの素晴らしい才能の持ち主です。まだ若いですが、芸術的にはすでにベテランの域に達しており、世界的にも広く知られています。ベートーベンやマルティーヌの曲もレコーディングを行っています。日本公演でも感動的な演奏をお届けできると思います。
―甦る“誇り高き響き”―
ビエロフラーヴェク指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
2013年10月30日(水) 19時開演 サントリーホール
2013年10月31日(木) 19時開演 サントリーホール
2013年11月03日(日・祝) 19時開演 ミューザ川崎シンフォニーホール
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