2013/10/24
ニュース
グリモー、成熟のブラームス
フランス出身のピアニスト、エレーヌ・グリモーのブラームスの偏愛ぶりはよく知られている。インタビューなどでも、早い時期からブラームスの音楽は心の琴線に触れるものがあったと語っており、とりわけブラームスのピアノ協奏曲については「ピアノの全レパートリーの中でも最高峰の作品」、なかでも第一番の協奏曲は「ダイアモンドの原石のようで、魂の純粋な表現である」と話す。
グリモーはそのブラームスのピアノ協奏曲第1番を1997年、26歳のときにザンデルリンク指揮ベルリン・シュターツカペレ管と録音し、話題を呼んだ。またその後もピアノ・ソナタなどの独奏曲やチェロ・ソナタなどの室内楽などにも取り組んできた。そしてここにきて再びピアノ協奏曲の世界にのめりこんでおり、俊英アンドリス・ネルソンスと新たにレコーディング――しかも今回は第2番も一緒に――を行なった。第1番はバイエルン放送交響楽団との演奏会でのライヴ録音(第1番はライヴでないと若きブラームスのエネルギーが伝わらないという)、第2番はオーケストラを変え、ウィーン・フィルとの楽友協会での収録である。
指揮者のネルソンスについてグリモーは最近のラジオのインタビューにおいて次のように語っている。「ここ数年ネルソンスと共演を重ねることができて幸せです。彼は本当に純粋な音楽家で、奇をてらったところはなく、あらがえない魅力を持っています。ダイナミックかつエネルギーに満ち、その表現の幅の広さは驚くほどです」と絶賛している。二人の音楽的な共感ぶりはレコーディングからも十分に聴き取れるだろう。
そのネルソンスとグリモーのコンビが10月にロンドンでフィルハーモニア管とブラームスのピアノ協奏曲第1番を演奏するということで、前々から楽しみにしていたのだが、残念ながらネルソンスがインフルエンザで直前に降板、代わりにフィンランドの指揮者ハンヌ・リントゥが登場した。リントゥはおそらくソリストともオーケストラとも初顔合わせで、最初はお互いやや手探りの感もあったが、そうした中でグリモーは自分のペースを崩さず、時には音楽的な主導権を取り、曲を深く掘り下げていった。テンポはけっして速くなく、また重厚さには欠けるものの、彼女の特色である硬質でクリアな響きで若きブラームスの詩情をくっきりと歌い上げた。第二楽章では静謐な祈りのような世界が繰り広げられ、グリモーはソロをきわめて美しく立体的に奏した。そして終楽章は気迫に満ち、ソロとオーケストラのバランスもよく、堂々とした演奏であった。そこには若き激しいグリモーではなく、成熟したグリモーの思索するブラームスがあった。
11月のバーミンガム市交響楽団の日本ツアーでは、信頼するネルソンスのタクトのもとで、ピアノとオーケストラが一体となった、パッションに満ちたブラームスが期待できるであろう。
後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト、在ロンドン)
世界中から熱い視線!光り輝く俊英&イギリスの名門!!
アンドリス・ネルソンス指揮 バーミンガム市交響楽団
2013年11月18日(月) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」~第1幕への前奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界」
2013年11月19日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ベートーヴェン:バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 (ピアノ:エレーヌ・グリモー)
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98