2013/11/11
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【来日直前 コンサートレポート】ネルソンス指揮バーミンガム市交響楽団
10月7日、来日直前のアンドリス・ネルソンスとバーミンガム市交響楽団(以下、CBSO)を聴きに、本拠地のシンフォニー・ホールにお邪魔した。プログラムの《ローエングリン》の第1幕への前奏曲、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(独奏V.ソコロフ)、そしてブラームスの交響曲第4番は、来日公演でも演奏される曲目ではあるが、ネルソンスがCBSOとブラームスの交響曲第4番を振るのは今回が初めてで、地元の聴衆たちの期待がたしかに感じられた。
ネルソンスはこの秋、ブラームスの交響曲(特に3番と4番)に集中的に取り組んでいる。先日のボストン交響楽団の音楽監督就任後初のコンサートでも第3番を、またその直後にバイエルン放送響とは第4番を指揮した。また日本ツアー後にはウィーン・フィルとも第4番を演奏する他、ロンドンのフィルハーモニア管弦楽団とのブラームス・シリーズもある。ボストンおよびバイエルンでの公演をネットラジオで聴いた時も感じたことだが、今回のCBSOとのブラームスの交響曲を聴いて強く実感したのは、ネルソンスのブラームスの解釈はとても思慮深く、詩情にあふれ、そして時折翳りも感じられるということだった。その一方で、本拠地での信頼の厚いホーム・オーケストラとの演奏なので、アウェイのボストン響やバイエルン放送響の時ほどの慎重さはなく、奏者たちからかなり自在な表現を引き出していた。各楽章のテンポも速すぎず、落ち着いた重厚な音楽作りであった。
とりわけネルソンスの特色が発揮されたのは第2楽章。CBSOはホールの音響の良さも相まって弦楽器がよく鳴るのだが、第2楽章のホルンと管楽器との主題提示が終わったあとのヴァイオリンのメロディーの歌わせ方などには本当に彼の天性の歌心を感じた。しかも師のヤンソンス同様、その表現を押し付けるのではなく、奏者たちから引き出すのである。また終楽章のパッサカリアでは、彼の明晰なアプローチが発揮され、8小節単位の各変奏のキャラクターをくっきりと描き分けつつも、それらがいとも自然につながっていくという見事な音楽作りであった。
シベリウスのヴァイオリン協奏曲は、バーミンガム公演では若手のヴァレリー・ソコロフが務めた。彼の演奏はわりと骨太でドラマティックなアプローチで、ヒラリー・ハーンとはおそらくかなり異なるとは思われるが、ネルソンスも彼の演奏に呼応して、オーケストラをよく鳴らし、思い切りのよいシベリウスをともに築き上げた。余談だが、プログラム冊子によると、CBSOが来日ツアーにシベリウスのヴァイオリン協奏曲を持って行くのは今回で3度目だそうなので(1987年にラトル指揮で堀米ゆず子、2002年にオラモ指揮で諏訪内晶子)、よほど得意としている曲といえそうだ。ハーンとネルソンスのフレッシュなコンビはどんな解釈をきかせてくれるだろうか。
最後になってしまったが、実は今回のバーミンガム公演でもっとも心を奪われたのはワーグナーの《ローエングリン》第1幕への前奏曲であった。筆者は残念ながらまだネルソンスのワーグナーの全幕オペラを聴けていないのだが(周知の通り、彼はバイロイト音楽祭ですでに4年《ローエングリン》を指揮している)、この短い前奏曲においてもワーグナーに対する彼の深い思いが凝縮されていた。さすが5歳で《タンホイザー》を観て涙したという彼の感性は並ではない。冒頭、ヴァイオリンによって紡ぎ出される、きらめく高音のハーモニーに始まり、ネルソンスはこの神秘的で荘厳な前奏曲をしかも確信に満ちたペーシングで、かつ全体として大きな弧を描くように展開。ホールの中だけ時が止まったような感覚にとらわれるほど、特別な空間を作り出していた。
6年前、CBSOの音楽監督にネルソンスが就任した時、彼はまだほぼ無名であった。もちろん、すでに高いポテンシャルを持った指揮者であったことは確かだが、今の彼があるのはやはりCBSOと厚い信頼関係を築き上げ、コアなレパートリーにともに取り組む中でしっかりと自分のものにしてきたからだと思う。これからさらに羽ばたいていくネルソンスだが、彼の原点であるオーケストラとの演奏を、ぜひライヴで味わってほしいと切に願っている。
後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト、在ロンドン)
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アンドリス・ネルソンス指揮 バーミンガム市交響楽団
2013年11月18日(月) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」~第1幕への前奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界」
2013年11月19日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ベートーヴェン:バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 (ピアノ:エレーヌ・グリモー)
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98