2022/2/25

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〈国際音楽祭NIPPON2022〉「諏訪内晶子 室内楽プロジェクト Akiko Plays CLASSIC and MODERN with Friends」 プログラム監修 沼野雄司氏による曲目解説をいち早くお届けします!〈MODERN編〉

国際音楽祭NIPPON2022 classic&modern

国際音楽祭NIPPON「諏訪内晶子 室内楽プロジェクト Akiko Plays CLASSIC and MODERN with Friends」は古典~ロマン派の作品を中心としたCLASSIC公演と、現代作品で構成されるMODERN公演から成る、シリーズ企画です。

対をなす二夜のプログラムでは今回、ファニー・メンデルスゾーンからバツェヴィチまで様々な時代の女性作曲家の作品が積極的に取り上げられ、また望月京による委嘱新作も初演されます。芸術監督の諏訪内晶子は、「この10年で、女性作曲家の作品を弾く機会が非常に増えてきています。世の中が多様化へと動いていくなかで、いつかはプログラムに取り入れたいという思いがあり、今回の企画に入れさせて頂きました。」と、その思いを語っています。

同企画のプログラム監修・沼野雄司氏による曲目解説<MODERN編>をお届けいたします。


Program Notes

沼野 雄司(音楽学)

<Akiko Plays MODERN with Friends>

 21世紀の現在、もはや「女性作曲家」という概念は消滅しつつある。ほとんどの音楽大学の作曲専攻は今や女性の方が多いくらいだし、若手作曲家をあれこれ思い出しても男女の数や質に差など感じられない。ヒルデガルト・フォン・ビンゲンからおよそ千年近くがたって、ようやく我々はここに到達したわけである。人類の未来については悲観的な予想ばかりだけれども、しかしこれは、掛け値なしに良いことだ。まずは望月京の新作に耳を傾けつつ、そんな時代を静かに喜びたい。

■望月京:フィロジェニー
※望月氏自身による曲目解説はこちらをご参照下さい。
https://www.japanarts.co.jp/news/p7165/

■テリー・ライリー:Gソング
 カリフォルニア生まれのテリー・ライリー(1935-)は、インド音楽などの影響から「ミニマル・ミュージック」と呼ばれる、限定された素材を反復する手法を開拓し、アメリカ音楽に新しい局面を開いた人物。現在にいたるまで、作曲家・即興演奏家としてジャンルを越えた活躍を続けているが、2020年、85歳になってから日本に居を構えるあたり、旺盛な好奇心と天性の放浪癖が感じられて面白い。
 「Gソング」は、もともとはサックスとキーボードのための小品を1980年、クロノスカルテットのために弦楽四重奏曲に仕立て上げたもの。ト短調、16小節のコード進行が何度も繰り返される構成は、バロック音楽的でもあり、ジャズ的でもあるが、一方でその上に乗せられて、次々に変容してゆく旋律は、アメリカ先住民の音楽に深い影響を受けているという。完全な調性音楽でありながら、保守的でも俗でもない不思議な響き。

■ジェルジュ・クルターク:ミハーイ・アンドラーシュへのオマージュ(弦楽四重奏のための12のミクロリュード) Op.13
 ルーマニア生まれのハンガリー人ジェルジュ・クルターク(1926-)は、今や最長老に属する作曲家。フランツ・リスト音楽院で学んだあと、50年代にパリで前衛音楽に出会い、ウェーベルンに範をとった独自の様式を開拓することになった。社会主義政権下で新しい音楽の創作が制限されていたこと、さらには極端な寡作のせいもあって、彼の作品は長く西側では知られていなかったが、冷戦終結後は一気に世界的な名声を得ることになった。
 1978年の「ミハーイ・アンドラーシュへのオマージュ」は、ハンガリーの先輩作曲家へのオマージュであると同時に、クルタークの音楽の特徴をきわめてよくあらわした作品。全体は12の小品からなるが、第1曲は9小節、第2曲は7小節、第3曲は10小節・・・といった具合で、いずれも極端に短い。さらに各曲には和音の推移、反復音型の発展、散乱するピツィカート、深い沈黙など、それぞれ全く異なった性格が与えられているから、ちょっとばかりビターな菓子の詰め合わせといった様相を呈している。

■マーク=アンソニー・ターネジ:ピアノ五重奏のための「スライド・ストライド」
 マーク・アンソニー・ターネジ(1960-)は、若いころからジャズ傾倒し、レッド・ツェッペリンからビヨンセに至るポピュラー音楽を自作に取り込んだかと思えば、プレイボーイ誌で活躍したモデルの生涯をオペラに仕立て上げるといった、ジャンル越境的な姿勢で知られる作曲家。ただし彼の師のひとりが、ジャズとクラシックの融合を目指した「第三の潮流」の主唱者ガンサー・シュラーであることを忘れてはならない。型破りにも見えるターネジの活動は、師の運動を現代的な形で受け継ぐものなのだ。
 2002年の「スライド・ストライド」は、ジャズ・ピアニストにして作曲家でもある、リチャード・ロドニー・ベネットに捧げられた作品。ラグタイムから生まれたジャズのストライド奏法のリズムを土台にしながらも、その上で全音階のクラスターがさまざまな形で用いられ、調と無調の狭間を漂う。およそ13分にわたって、ターネジならではのジェットコースター的な音響空間を堪能することができるはずだ。

■グラジナ・バツェヴィチ :ピアノ五重奏曲第2番
 グラジナ・バツェヴィチ(1909-69)はポーランドの女性作曲家。ワルシャワ音楽院でヴァイオリンを学んだのち、パリでナディア・ブーランジェに作曲を師事。戦後の56年に始まった「ワルシャワの秋」音楽祭では、セロツキやルトスワフスキらとともに積極的に牽引役を務め、次々に西側の新しい技法を取り込んでゆくことになった。没後50年以上がたっているが、クリスチャン・ツィメルマンをはじめとして、何人かの演奏家が、今も継続的に彼女の音楽に取り組んでいる。
 1965年に書かれた「ピアノ五重奏曲第2番」は、生前には初演されることがなかった作品。第1楽章(モデラート)は、冒頭の3小節で嬰ヘ音以外の11音を使い切るという無調的な開始部から、それぞれ性格の異なる細かい断片が繋ぎ合わされて、パッチワークのような風情を醸し出す。第2楽章(ラルゲット)は、やはり弦楽器からピアノにかけて堆積する音群が12音をまんべんなく使われる中で、ねっとりした時間が流れてゆく。第3楽章(アレグロ・ジョコーソ)は、ピアノと弦楽器群のパートがはっきりと分けられ、交互に対話あるいは衝突を続ける。ピアノの下行グリッサンドが何度もあらわれるあたりの迫力は圧巻だ。


◆〈CLASSIC編〉はこちら ⇒ https://www.japanarts.co.jp/news/p7171/

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