2022/7/5

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イゴール・レヴィット “瞬く間に頂点へ” ~ベートーヴェン・ソナタ サイクル・イン・ジャパン~

欧州の第一線で活躍し、今もっとも熱い視線が注がれているイゴール・レヴィット。
2019年に「ベートーヴェン・ソナタ全集」(全9枚)をリリース。ルツェルン音楽祭、ザルツブルク音楽祭、ベルリン音楽祭等の世界第一級の舞台で高い評価を得てきたベートーヴェン:ピアノ・ソナタ チクルスが11月、いよいよ日本で開催されます。

才気あふれるレヴィットの音楽、また11月18日(金)、19日(土)の公演の聴きどころについて、紀尾井ホールプロデューサーの松本學氏による記事が、同ホール機関誌「紀尾井だより」に掲載されました。

イゴール・レヴィット


クラシック界にはスターと呼ぶべきアーティストがしばしば現れるが、その中でも今最も輝きを放っている一人がこのイゴール・レヴィットだ。極めて現代風なピアニストであり、演奏やレパートリー選択の知的さ、この上ないテクニックなどの他にも、社会活動にも積極的にアンガージュしていくし、コロナで世界が閉ざされた時には、自分のためだけに音楽をすることはできないと、ソーシャルメディアを用い、ハウスコンサートへ(いざな)うかのようになんと52日間連続で自宅から演奏を配信するというアクションを起こしたのは記憶に新しい。その際には16時間に及ぶ、まさに耐久レースのようなサティの《ヴェクサシオン》まで含んでいた。

瞬く間に頂点へ

レヴィットは、名高いピアノ教師ゲンリフ・ネイガウスの孫娘でオペラ歌手だった母の元に生まれ、ピアノを習い始めてすぐに才能を発揮し、早くも6歳でオーケストラと共演している。8歳で家族と共にドイツに移住してからは、ハノーファー音楽大学で英才教育を受けた。筆者が初めてその名を目にしたのは2003年、まだ彼が16歳だった時のこと。ザルツブルク音楽祭で、モーツァルテウム音楽大学が国際夏期アカデミーのマスタークラス優秀生を集めて開いたコンサートに彼の名があった。そのほぼ半年後には日本にやってきて、第9回浜松国際ピアノアカデミーコンクールで第1位を受賞、さらに翌05年の第11回ルービンシュタイン国際ピアノコンクールでも第2位に輝くなど持てる力を一気に開花させていった。

その後2010年に大学を修了すると、ここからはまさに破竹の快進撃が始まる。11年ルツェルン音楽祭にユロフスキ指揮ロンドン・フィルの「プロメテウス」プログラムで登場。翌年には初のリサイタルで再来日を果たした。ウィーンのムジークフェラインとハンブルク・ライスハレ、ケルン・フィルハーモニー、バーデン=バーデン祝祭劇場共同主催によるライジングスター・ツィクルス、ユリア・フィッシャーとのベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲シリーズ、キリル・ペトレンコ指揮バイエルン州立歌劇場管弦楽団との来日、ベルリン・フィル(デビューはアルゲリッチの代役)やウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管との共演など、その活躍はここに書き切れるものではなく、今や最もスケジュールが取れないピアニストと言われるほど。

録音の面でも、25歳となる2012年にはソニー・クラシカルと契約。30歳そこそこでCD9枚にもなるベートーヴェンのソナタ全集をリリースするなど、破格の待遇を受けている(そしてこの全集は2022年第63回グラミー賞にノミネートされた)。

ベートーヴェン・ソナタへの集中的な取り組み

ベートーヴェンのソナタ全曲・選集演奏は2017年にウィグモアホールでも取り組まれていたが、さらに2020年の生誕250周年に向けて改めて組まれ、19年8月のルツェルン音楽祭と11月の同ピアノ音楽祭計4公演でスタート。以降20年2月ストックホルム4公演、5月サンフランシスコ(中止)、8月ザルツブルク音楽祭全8公演、その翌日からルツェルン音楽祭で2公演、1日空けてベルリン音楽祭で全8公演(合間に英国ウィグモアホールで1公演)、さらにストックホルム(一部中止)、21年7月エルプフィルハーモニー、再びルツェルン音楽祭で3公演と弾き続けてきた。

その内19年の数公演を会場で聴くことができたが、知的で研ぎ澄まされているのと同時に、熱量は高く、またすべてのパッセージは明確にコントロールされており、音は明晰で、リズムは闊達、歌とフレーズは澱みなく、あらゆる瞬間に説得力がみなぎっていることに圧倒された。実際にその場にいると、彼の集中力の凄まじさと音楽の密度に惹き込まれ、時を忘れそうになるほどだった。これを日本で紹介したい、そう考えたのが本企画である。

いよいよ5か月後に迫ってきたレヴィットのベートーヴェン・ソナタ選集。今回は、初日が第1番、第12番、第25番、第21番《ヴァルトシュタイン》、2日目が第5番、第19番、第20番、第22番、第23番《熱情》の、共に初期から中期にかけての作品のセットからなる2公演。レヴィットが長きにわたり学び、ヨーロッパで集中して磨き込んできた結晶が日本で披露される。あらゆる音楽ファンに、2公演の内の「どちらか」ではなく、「どちらも」お聴きいただきたく、自信を持ってお薦めしたい。


〈紀尾井ホール機関誌「紀尾井だより Vol.154」より一部抜粋のうえ転載いたしました〉
https://kioihall.jp/kioiweb/wp-content/uploads/kioi_vol154.pdf


イゴール・レヴィット ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・サイクル・イン・ジャパン Ⅰ&Ⅱ
2022年11月18日(金) 19:00 / 2022年11月19日(土) 14:00
紀尾井ホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p973/

◆イゴール・レヴィットのアーティストページはこちら
https://www.japanarts.co.jp/artist/igorlevit/

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