2022/8/26

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日本を代表する二人の音楽家による、夢のデュオ!

舘野泉、千住真理子

日本を代表する二人の音楽家による、夢のデュオ!

 舘野泉と千住真理子。二人が初めて共演したのは2020年のこと。日本を代表する音楽家同士の夢のデュオだ。

千住「初めて間近で聴いた舘野先生の音の美しさ! 雄弁で、流れるような豊かな歌に包まれる幸せを感じながら弾いていました。絵画を見て、自分が色彩の一部になって絵に溶け込んでいくような感覚になることがあります。舘野先生と一緒に演奏する私というのは、まさにその感覚。美しい音のオーラの中にふわっと自然に入って、自分が舘野ワールドの中の一色であるのを感じます」

 《G線上のアリア》《タイスの瞑想曲》《夢のあとに》など、おなじみの名曲をこの二人の顔合わせで聴けるはうれしい。もちろんピアノ・パートは通常の版とは異なる。2002年に脳溢血で倒れ右半身不随となり、現在は左手のピアニストとして活動する舘野のために編曲したもの(編曲:光永浩一郎)。2年前の初共演以来の二人のレパートリーになっている。

千住「楽譜をどう見ても、左手だけで弾くのは絶対に不可能なんです。それを無理矢理お願いするのは、先生をいじめるようなもの。いくらなんでもこれはやめませんか?と提案申し上げたんですけど、『いや、そんなことない。練習します』と穏やかにおっしゃって。そして見事に音にしてくださいました。びっくりしました」

舘野「あははは。じつはね、最初から左手のために書かれた曲よりも、両手で弾く通常の曲を編曲した作品のほうが弾きにくいんですよ。編曲者には、やっぱり作曲者への尊敬の気持ちがあるでしょう?なるべく原曲に忠実に、と考える。それを左手だけでカバーしようとするから難しい。もうちょっと大胆に音を削ってしまって、スムーズに流れるようにしてくれれば素敵なんだけど(笑)。でも、彼らが原曲を大事に思っている気持ちもひしひしと感じるので、譜面を読んでいるだけでも楽しいというか、豊かな世界が広がるんです」

舘野泉、千住真理子<2021年サルビアホールにて>

 現在、舘野のために国内外の多くの作曲家たちが左手のための作品を献呈し続けている。その数は、これまですでに120曲ほど。室内楽作品も少なくない。今回はその中から、左手とヴァイオリンのために書かれた、谷川賢作《スケッチ・オブ・ジャズ2》と、久保禎(ただし)《5つの風景画》を抜粋で演奏する。

千住「谷川さんの曲はすごく楽しいんです。私はジャズ系ってあまりなじみがなかったのですけど、今回先生と一緒に弾かせていただいて、わっ、楽しい!と。すごく面白味があって、おそらく、聴いていただく方も楽しめる作品です」

舘野「久保さんの《5つの風景画》も素晴らしですよ。すごく難しいんだけど、歌がとても自然に入ってくる。時間の中にたくさんのことが入っていて、素晴らしい音楽になっています」

千住「本当にそうですね。世界がふわっと広がっていくような音が、先生の指から溢れてきます」

舘野「今回弾くのはそこから2曲だけ。でも全曲素晴らしいからね。千住さんにはぜひ全部弾いてもらいたいと思っています」

千住「次回、ぜひお願いします!」

 事情こそ異なるものの、二人とも楽器から離れることを余儀なくされたことがある。上述のように、舘野は65歳で病に倒れた時。千住は20歳の時、精神的な挫折から、ヴァイオリンを置いた時期があった。

千住「まだ子供だったのかもしれないですが、当時の私には、とても大きな悩みでした。音楽という純粋なものと、その音楽を扱う社会が、私の中ではどうしてもひとつにならなかったんです。人間はみんな、きれいな部分も汚い部分も持っているけれども、そんな人間が純粋な音楽を扱うのは、音楽を汚してしまうような気がして。それがプロの音楽家だというのなら、プロとしてやっていくのはやめようと思ったんです」

舘野「千住さん。僕はね、自分の人生で3回素敵な時期があったと思ってるんですよ。最初は小学校3年生の時。東京の家が空襲で焼けて、栃木の農村に疎開したんです。土地の子供たちはみんな裸足で飛び回ってる。僕も音楽なんて忘れて自然の中で暮らした。半年にも満たないんだけれども、本当に素晴らしい、大事な時間だった。その次は芸大受験に失敗して1年浪人した時。でも、学校のことにも音楽のことにも縛られない、本当に素晴らしい時間だったんですよ。自分の好きなように、考えるままに生きたというかね。それで3回目は、脳溢血で2年間ピアノを弾けなかった時。周りの人はみんな、苦しんだでしょう、絶望されたでしょうと言うんだけど、そんなのないんですよ。左手でやることも全然考えてなかった。結局病気から2年近く経った時に、あるきっかけでやりだすんですけどね。勉強から離れたその3つの時期がね、それぞれ大事だったと思っているんです」

千住「私もヴァイオリンを離れてワイワイ楽しい学生時代を過ごしました。そして、外から客観的に見て、あらためて音楽って素晴らしいなって思うようになったんですね。1年ぐらい触らなかったヴァイオリンに、久しぶりに触れたときの感動は忘れられません。体中が震えるような弦の響き。ひとつの音の中にいろんな音が聴こえてきました」

舘野「苦しんだ中で、ある日、再び音楽を見い出す。その中に自分が自然に入っていけば、今度は音楽が、自然と素晴らしい姿を見せてくれるんですね」

 コロナ禍やウクライナ侵攻の影響もあり、私たち聴き手もまた、新たな気持ちで音楽と向き合うことが少なくない。

千住「私は最近、音楽ってどんな存在なんだろうと考える時間が多くなりました。何事もないように演奏会をやっていた時期よりも、愛おしく、まだ終わらないで、と思いながら演奏しています。音楽を奏でるということが、すごく大切なことのように感じるのです」

舘野「もちろん音楽に直接何かができるわけではありません。でも、音楽というのは言葉を通じてではなく、そのまま受け取ることができるものです。そこでお互いの心が行き来して、みんなが自由に解き放たれる。だから、音楽会をやることができて、人が聴きに来てくれる。そういう時間を持てることが、とても大事なことだということを再認識しています」

執筆:宮本明


《公演情報》
千住真理子&舘野泉 デュオ・リサイタル
アフタヌーン・コンサート・シリーズ 2022-2023
夢の響演!秋のやわらかな日差しに包まれて…
千住真理子&舘野泉 デュオ・リサイタル

日程:2022年10月4日(火) 13:30開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p970/


◆千住真理子のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/marikosenju/
◆舘野泉のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/izumitateno/

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