2023/3/8
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【インタビュー】牛田智大に聞く!今シーズンのリサイタルプログラムについて
2月末より全国で始まった「牛田智大ピアノ・リサイタル」も各地で大成功のなか、3月16日(木)東京オペラシティ コンサートホールでの公演が間近に迫っています!
プログラムについて、音楽評論の道下京子さんが牛田智大に話を聞きました。
昨年、牛田智大はデビュー10周年を迎えた。彼のデビューは12歳、その堂々とした演奏で瞬く間に日本中から注目された。
これまで、牛田は特にショパンの音楽に関わることが長かった。10代前半にしてレコーディングをいくつも世に送り、彼の少年時代の演奏に今でも接することができる。そのころから、すでに大人顔負けの多彩なタッチで情感たっぷりにショパンを奏でていた。
また、昨年にはショパンの晩年の作品をおさめたアルバム「ショパン・リサイタル2022」をリリース。そのアルバムに収録された《ポロネーズ第6番「英雄」》と、9年前にリリースされた同じ曲を聴き比べてみると、牛田の成長と同時に、デビューから間もないころの彼の唯一無比の才能の開花を知ることができる。類い稀な豊かな感受性と音楽の堅固な構築性、そして冷静沈着な眼差しは、以前からの彼の演奏の秀でた持ち味である。最新のショパン・アルバムでは、内面への視線が強く感じられ、より表面的な効果を排除しているように思われる。楽譜を深く読み解き、甘美な雰囲気や余剰な感情をそぎ落とし、ストイックに作品の核心へと迫り、晩年の作曲家の孤高の世界を極めている。
2022/23年のシーズンにおいて、牛田は新たなジャンルに足を踏み入れている。
3月に東京オペラシティで行われるリサイタルでは、ドイツ・ロマン派の作曲家の若かりし頃のピアノ・ソナタに挑む。これら3曲は歌曲と結びついている。
「昨年まではショパンの晩年の死を意識するような作品が多かったので、今度は若々しいエネルギーに満ちた作品に取り組みたいと思ったのです。すべて作曲家が20代前半に書いた作品ですから、同年代である自分が演奏することで、なにか特別な意味を加えられたらと思っています」
シューベルトのピアノ・ソナタからは、第13番を演奏する。この作品が完成したのは1819年。彼にとって、まさにこれからという時の創作である。
「この時期の彼はまだ心身の充実を保っていた最後の時期だといえます。とはいえ音楽家としては成功を目前にしていたわけですから、彼のいくらか浮遊感のある精神状態を反映させることができればと思っています。」
このピアノ・ソナタは、すべての楽章が歌曲のような叙情性を湛えている。シューベルトの音楽について、このように述べている。
「聴衆や社会に対してなにか問いかけるような外に向かうものではなく、内面を語るようなスタイルに共感を覚えます。」
シューマンのピアノ作品は、若いころにその多くが書き上げられている。彼の3曲のピアノ・ソナタも20代の作品。そのなかから、牛田は第1番をとりあげる。
このピアノ・ソナタの緩徐楽章には、《歌曲「アンナに寄す」》が転用され、それが第1楽章の序奏に用いられている。
「《ピアノ・ソナタ第1番》は、1830年代前半、つまり20代前半にソナタ形式の新たな可能性を模索して書かれた作品です。さまざまなアイデアを織り込むがゆえの「いびつさ」を感じられることが魅力ではないかと思います。
シューマンがこの作品において「フロレスタン(激情的)とオイゼビウス(思索的)という対照的な性格を持つ2人の人物に議論をさせる=ダヴィッド同盟構想」と「ソナタ形式」との融合を試みたことは有名ですが、これはつまるところ目まぐるしく曲調を変化させることによって生じるコントラストを形式に当てはめ、構成感を出すために利用することなのだと思っています。この試みは結果として作品の構造をいくらか難解にしてしまった印象がありますが、彼の溢れんばかりの才能や音楽への愛を感じることができる作品です」
プログラムの最後を飾るのは、ブラームス。彼の3曲のピアノ・ソナタも21歳までに書き上げられている。そのなかから、リサイタルで演奏されるのは第3番だ。
「ブラームスのピアノ・ソナタは第1番か第3番に取り組みたいとずっと思っていました。プログラムの最後の曲ということ、またシューベルトとシューマンからの系譜を追う意味もあって第3番を選びました」
ブラームスのこのピアノ・ソナタの第1楽章は、まさにベートーヴェンを彷彿とさせる音楽である。しかし、第2楽章ではシュテルナウの詩が掲げられ、後半にはジルヒャーの創作民謡のメロディが用いられている。
ブラームスの音楽、そしてドイツ音楽についての牛田の言葉は興味深い。
「音の数が少ないので、ひとつの音が負うメッセージ性はとても強いですし、民族音楽からの影響も大きいので、特徴的なリズムを理解する必要もあります。
かつてMo.プレトニョフにラフマニノフの曲を聴いていただいたとき、最初に言われたのは「音を捨てなさい」ということでした。ロシア作品の多くは必要な音とそうでない音があるという考え方で、音楽にとって重要な音かどうか優先順位をつけて層を作るようにアプローチをします。
それとは対照的に、ドイツの作品ではすべての音に意味があり、まるで歯車のように作品を組み立てる要素になっています。より神経を尖らせて音に意味や哲学などを含めなければいけないので、求められるものがたくさんあります」
デビュー11年とはいえ、牛田はまだ23歳。ドイツ・ロマン派の音楽は、やがて彼の重要なレパートリーとなっていくのではないだろうか。
道下京子 (音楽評論)
●● 今後のリサイタルスケジュール ●●
3月10日 入善コスモホール
3月11日 ふくしん夢の音楽堂
3月12日 岩手県民会館 中ホール
3月16日 東京オペラシティ コンサートホール
3月18日 愛知県芸術劇場 コンサートホール ★
3月20日 習志野文化ホール
3月21日 よこすか芸術劇場 ★
3月25日 ザ・シンフォニーホール ★
3月26日 八ヶ岳高原音楽堂
3月31日 札幌コンサートホールKitara
★の公演は、一部曲目が異なります。
https://www.japanarts.co.jp/artist/tomoharuushida/
鮮烈なピアニズムから香り立つ馥郁たるファンタジー
牛田智大 ピアノ・リサイタル
日程:2023年3月16日(木) 19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2006/
繊細さと情熱がほとばしる感動のピアニズム
牛田智大 ラフマニノフを弾く
日程:2023年6月6日(火) 19:00開演
会場:サントリーホール
出演:牛田智大(ピアノ)、飯森範親(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2020/
⇒ 牛田智大のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/tomoharuushida/