2023/4/3

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漆原啓子「デビュー40周年記念」トリロジーを完走!

漆原啓子「デビュー40周年記念」トリロジーを完走!

18歳の漆原啓子が第8回ヴィエニャフスキ国際コンクールで日本人初&史上最年少の優勝を遂げ、翌年に本格的な演奏活動を開始してから2022年で40年。「デビュー40周年記念」と題した3回連続のリサイタルシリーズを企画、3人のピアニストとともに、2023年3月で完走した。

漆原啓子、秋場敬浩
<第1回 漆原啓子&秋場敬浩デュオ・リサイタル ロシア・アルメニアの作品を中心に>

トリロジー(3題話)の詳細は2022年3月13日の初回(東京文化会館小ホール)が秋場敬浩とのロシア&アルメニア音楽、11月9日の第2回(Hakuju ホール)がヤコブ・ロイシュナーとの(主に)ドイツ=オーストリア音楽、2023年3月11日(東京文化会館小ホール)が野平一郎への委嘱新作世界初演とフランス音楽。「40年のキャリアを通じ、新作を自分から委嘱したのは初めての経験」(漆原)だった。

漆原啓子、ヤコブ・ロイシュナー
<第2回 漆原啓子&ヤコブ・ロイシュナーデュオ・リサイタル ドイツ=オーストリアの作品を中心に>

その野平への委嘱作、「《一息で》 ヴァイオリンとピアノのための」が素晴らしかった。当日のプログラム冊子に作曲者自身が記した解説の一部を転載する。

「作品の冒頭にあるG線上のC(ハ)音の一瞬のクレッシェンドから、音型、和音、アイディアのすべてが派生していく。説明が不可能なほど、さまざまなアイディアが次から次へと現れては消えていくが、それらすべては一筆書きのように、ただ一つの身振りによって表される。もちろんどのアイディアや音型も、漆原さんの超高度な技術を頼りにしていて、また express.(表情豊かに)とスコアに書かれた瞬間がいくつもあり、彼女の美音を想定している。時には時間が止まったようなゆったりした動きと、素早く目まぐるしい運動が交互に繰り返される。ピアノは、ほとんどの瞬間でその音をヴァイオリンと共有し、前面に浮き出てきたり、背景に引っ込んだりする」

漆原啓子、野平一郎
<第3回 漆原啓子&野平一郎デュオ・リサイタル フランスのソナタから、野平への委嘱新作を世界初演!!>

野平自身が奏でるピアノは音楽史の様々な瞬間を自由に、しかも淡々と往来するなか、漆原の美しいヴァイオリンの音が時空を超えた歌を縦横に描き、高揚へと至るプロセスがとにかく見事で、優れたデュオ(二重奏)作品に仕上がっていた。

前半のドビュッシー、プーランクは、単に「フランス近代を代表するヴァイオリン・ソナタ」以上の意味を持つ。ドビュッシーは第一次世界大戦が「古き良き時代」のヨーロッパを粉々に砕くのを目の当たりにして6曲の擬古典的なソナタのセットを構想、1915年に「チェロとピアノ」「フルートとハープ、ヴィオラ」、1917年に「ヴァイオリンとピアノ」の3曲を完成したところで自身の命が尽きてしまった。没年の1918年から1920年にかけては新型ウイルスのパンデミック(世界拡大)、通称「スペイン風邪」が猛威を振るった。プーランクはスペインのフランコ派に銃殺されたフェデリーコ・ガルシーア・ロルカ(1898ー1936)の詩に基づき、第二次世界大戦への怒りをこめたソナタだ。新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻に前後して見舞われた2022ー2023年の日本、世界を静かに見据えた秀逸な選曲だった。

後半最後、フォーレが1876年に完成した「ヴァイオリン・ソナタ第1番」は前半とは対照的、幸福感に満ち溢れた作品で、トリロジーの締めくくりにもかなっていた。アンコールも「3」曲。フォーレの《子守歌》、ドビュッシーの《美しい夕暮れ》、プーランクの《愛の小径》と野平以外の3人をきちんと回想する配慮に至るまで、完璧だった。

休憩時間にロビーを目指した瞬間、私の真横にチェロ奏者セッポ・キマネンと結婚し、フィンランドに居を構える往年の名ヴァイオリニスト、新井淑子の顔が飛び込んできた。私たちは「何か、運命的なものすら感じる」と再会を喜び合い、新井は「漆原さんの演奏、ものすごく良いわ。今の日本の演奏家は紛れもなく世界水準で、素晴らしい音楽を奏でているのが実感できます」と興奮の面持ちで語った。本当、良い演奏会といえた。

池田卓夫
音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎
https://www.iketakuhonpo.com/


⇒ 漆原啓子のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/keikourushihara/

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