2023/8/7

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森麻季 インタビュー【前編】~すぐれた歌に「愛と平和への祈り」がこめられるまで~

ワシントン・ナショナル・オペラにデビューしてから今年25周年を迎え、9月にリサイタルを予定するソプラノの森麻季。
演奏会に向けて、オペラ評論家の香原斗志さんがインタビューを行いました。前編、後編に分けてお届けいたします。

森麻季

野球の大谷翔平もそうだが、道を究める人は自己分析ができる。ソプラノの森麻季も20代で欧州に留学したときから、それができていた。

「特に欧米の人は、日本人がたくさん学んでやっとできることが最初から備わっているんだと、留学先では痛感しました。しかも、かなり若い人も私よりずっと重い声なんです。だから、自分の声に合ったものを歌っていくのが大切だと思いました。イタリアに行くと、リリコをめざす人が多いと思いますが、逆に技術的にすごく大変だとか、高音をたくさん出すから大変だといった理由で、みんながやりたがらない役を選んだほうが道が開けるのではないか、と考えたりしました」

森麻季

 そのうえでコンクールもオーディションも受けられるものは受け、道を開拓していった。結果、プラシド・ドミンゴ主宰のコンクール「オペラリア」に、アーウィン・シュロットやジョイス・ディドナートらと並んで入賞。それが1998年に、日本人では初めてワシントン・ナショナル・オペラで歌うことにつながった。

 デビューの役は《後宮からの逃走》のブロンデ。その後、《リゴレット》のジルダをアンナ・ネトレプコとダブルキャストで歌うなど出演を重ね、9.11の同時多発テロが起きたときも《ホフマン物語》にキャスティングされ、ワシントンにいた。このときの特別な経験から、それまで完璧に歌うことばかりを考えていた森の意識が変わったという。

森麻季

「スミ・ジョーさんとダブルでオランピアを歌う予定が、ゲネプロ当日にテロが起き、私が歌う14日についても、人が集まるところに行かないようにニュースなどで呼びかけていました。実際、劇場はホワイトハウスやペンタゴンから近くて危険でしたが、アメリカの人にはテロに屈しないという姿勢があって、テロの翌日から劇場を開いたんです。でも、お客さんは来ないんじゃないかと思いながら、普段は組まない円陣を組み、一人でもお客さんが来たら、悲しい状況を一瞬でも忘れてもらおうと話していたら、14日はほぼ満席で、多くの人が『あなたのオランピアは最高だった』と言ってくださり、『芸術が平和を呼ぶように』というステキな言葉をかけてくださいました。それを機に、自分が歌う姿勢が変わったと思います」

 その後、3.11の東日本大震災でも同様の経験をした森は、「音楽には心に寄り添う力があったんだな」と思ったという。その半年後、「愛と平和への祈りをこめて」と題したリサイタルを初めて開催し、それが今年で13回目になる。

(後編へ続きます)

取材・文:香原斗志(オペラ評論家)


森麻季 ソプラノ・リサイタル
《公演情報》

ワシントン・ナショナル・オペラデビュー25周年
~感謝をこめて~
愛と平和への祈りをこめて Vol.13
森麻季 ソプラノ・リサイタル
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2031/
日程:2023年9月10日(日) 14:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール


◆森麻季のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/makimori/

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