2023/10/10
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【海外公演レポート】来日直前 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 現地公演レポート
まもなく10月15日に北九州公演から日本公演がスタートするパーヴォ・ヤルヴィ指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団。日本公演と同じブルース・リウをソリストに迎えた現地公演(10/4)のレポートが中東生さん(スイス在住ジャーナリスト)より届きました。
ドイツ音楽の伝統を踏襲しながらも、それに縛られることなく独自の音色を熟成させてきたチューリッヒ·トーンハレ管弦楽団。彼らを世界屈指の交響楽団として周知させようと、2019年音楽監督に就任したパーヴォ·ヤルヴィは、楽団員のみならず、経営陣とも、そして聴衆とも「蜜月」状態を継続させています。そんな彼らの演奏を日本で披露できることは、現地でも喜ばしく受け止められています。日本人には痛い円安も影響して、スイスでは今、日本旅行がブーム。そんな中、実は日本ツアーは、コロナ禍による延期で、ようやく決行されるのです。でも、予定通り実現されていたら、改築中だったため仮設ホールのオーラを纏っていたでしょう。ブラームスが柿落としをした湖沿いのトーンハレ改築が終わり、「想像以上の音響になった」とヤルヴィも語るホールの中で、2年以上熟した美音を聴ける「今」を待った甲斐はあります。
ラフマニノフのピアノ協奏曲以外全ての訪日プログラムを一足先に聴いてきましたので、ここで少しお伝えしようと思います。
ベートーヴェンの「献堂式」序曲は9月20、21日にオール·ベートーヴェンプログラムの導入として効果的に演奏されました。ヨーゼフシュタット劇場の柿落としのために書かれたこの曲は、ベートーヴェンが書いた最後の純粋管弦楽曲ですが、ヤルヴィの指揮は新鮮なエネルギーに溢れていて、幸せな幕開けにピッタリの演奏でした。
そして10月4日ブルース·リウがトーンハレにデビューしました。初共演だったヤルヴィですが、リウを自由に歌わせ、どんなリタルダンドにもしっかりついていく姿は匠です。GP後のヤルヴィは「(リハーサルを終えて)私は確信しています。彼はとても興味深い(音楽家)です。日本でも素晴らしい共演になることでしょう。」と力強く語っていました。リウも「トーンハレ管の音は一言で言ってリッチ。ショパンには重過ぎるかと思ったけれど、そんな事はなく、合わせてくれるのが凄い」と満足気でした。リハーサル中、カーテンでホールを前方だけ区切っていた時にはその言葉を実感できなかったけれど、本番でオーケストラを聴いてびっくり。こんなくぐもったトーンハレ管は初めて!だからこそリウのソロが入った時の効果は絶大。シャープで躍動感のあるリウのピアノに、オーケストラが陰影や色を与えているのです。第2楽章は止まりそうなテンポや消え入りそうな弱音に極限まで挑戦するリウに、呼応します。アウフタクトではリウの牽引力が極立ち、ソロファゴットの旋律も浮き立たせるヤルヴィ。第3楽章では運動能力が高いリウの体幹から弾むスタッカートがどんどんクライマックスに引っ張り、最後の音が終わると、近くの紳士も「ウォー」と叫んでいる。一瞬サッカー場かと思った程···。
「ツアーだと時間をかけてお互いの事を良く知れるので、演奏もどんどん良くなるから嬉しい。」というリウだから、日本でもっと熟していくのかと思うとワクワクします。
アンコール後、ピアノを片付ける間も興奮冷めやらない聴衆を待たせ、ようやく登場したヤルヴィは、まだ拍手が続いている中、いきなりタクトを下ろしました。エッジの効いた第1楽章は息つく間もないほど。全曲通してヤルヴィの構築力が光り、スリリングな《運命》が希望と共に終わったのでした。
翌日10月5日はブラームスの「交響曲第1番」のみの「ランチコンサート」、6日は再び「献堂式」序曲他と一緒に同曲を演奏しました。平日の昼12時過ぎ、団員は普段着のままで、「リハーサルの最後の通し」を聴衆に開放している様なランチコンサート。それがかえって、9割埋まっている聴衆と楽団員の距離を縮めます。第1楽章の旋律を美しく、切なく歌わせる他は強いエネルギーで痛みを咆哮するような熱いブラームス。疲れを知らず、演奏する喜びと信頼感に満ちている彼らをお楽しみに···。
中東生(スイス在住ジャーナリスト)
写真提供:チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
パーヴォ・ヤルヴィ指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2033/
スイスの名門オーケストラと今最も注目されているピアニスト のブルース・リウによる壮麗なる響き。音楽監督パーヴォ・ヤルヴィが魅せる新境地にご期待ください。
[公演日程]
10月15日(日) 北九州ソレイユホール
10月16日(月) サントリーホール(完売)
10月18日(水) サントリーホール(完売)
10月19日(木) 所沢市民文化センター ミューズ
10月20日(金) 富士市文化会館 ロゼシアター
10月21日(土) ザ・シンフォニーホール