2023/10/25
ニュース
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール 現地レポート②
各奏者の魅力が光ったファイナル
プレイエルを自在に操ったエリック・グオが優勝
執筆:高坂はる香 (音楽ライター)
ショパン国際ピリオド楽器コンクールは、カナダのエリック・グオさんの優勝という結果で幕を閉じました。
グオさんは、前回2021年のモダン楽器のショパンコンクールにも出場するなど、ショパンのレパートリーには長く親しんでいる一方、ピリオド楽器については、コンクールを受けるにあたってはじめて学び始めたといいます。しかし、優れたピアニストはすぐにどんな楽器も手懐けることができるのはそれがピリオド楽器でも同じことだと示すかのように、グオさんはプレイエルでショパンの感情を自由自在に表現していました。
ワルシャワ時代最後の若き日にショパンが作曲したピアノ協奏曲を、ショパンの時代のピアノと古楽器オーケストラで演奏するファイナルラウンド。楽器は、プレイエル(1842年製)とエラール(1838年製)の2台から選びます。共演は、審査員でもあるヴァーツラフ・ルクスさん指揮、{oh!} オルキェストラ・ヒストリチナ。今回はファイナリスト6人全員がピアノ協奏曲第1番を選択。
聴く側にとっても多くの発見のあったこのステージを、入賞者の演奏から振り返ります。
第3位には、2人のピアニストが入賞。
一人目は若き日からジュリアードで学び、現在ミシガンでフォルテピアノやオルガンも学ぶアンジー・チャン(Angie Zhang)さん(アメリカ)。上位入賞者の中では唯一、古楽器を専門に学ぶピアニストとなりました。選んだのはプレイエル。楽器を繊細にコントロールし、軽くまろやかな音で、ショパンの心情を丁寧に表現していました。
©NIFC
もう一人の第3位は、10代半ばからポーランド、カトヴィツェで学び、現在シマノフスキ音楽院でシヴィタワさんに師事するユンホアン・チョン(Yonghuan Zhong)さん(中国)。彼はエラールを選択しており、演奏順がZhangさんの次だったので、その音量の豊かさがより際立ちました。高音を輝かせ、逆に低音のボリュームもたっぷりに、素直さが伝わるようなまっすぐな演奏を聴かせました。
©NIFC
第2位に入賞したピオトル・パブラク(Piotr Pawlak)さん(ポーランド)は、モダン楽器のショパンコンクールへの出場経験があるほか、昨年のパデレフスキコンクールでもファイナリストとなるなど、地元で注目されているピアニスト。現在グダンスクでピアノ、即興演奏とオルガンを勉強しているとのこと。ピリオド楽器のコンクールはおもしろい挑戦になるだろうと応募してみたということで、次のステージに進めるとわかるたび、ご自身で驚いていたようです。
今回、楽器はエラールを選択。爽やかさと明るさがありながらどこか暗さを感じさせる、いわばポーランドを感じるショパンを再現。ナチュラルさが魅力のピアニストです。
©NIFC
そして、優勝したエリック・グオ(Eric Guo)さん。
まず印象的だったのは、プレイエルがよく鳴り、他の奏者と比べてもオーケストラの中で一層際立っていたこと。エラールにも引けを取らないボリュームを出しながらも、音が汚くなるリミットを越えることはなく、また逆にしぼりきった音もよく通ります。しばしば腕を高く振り上げる弾き姿、表現のダイナミックさはモダンピアノの演奏のようですが、出てくる音に、古楽器ならではの質感と魅力が感じられる場面もありました。
もう一つ印象的だったのは、自由に揺れる歌い回し。しかしオーケストラとのコミュニケーションを取ろうとしているので、指揮者のルクスさんもその揺らぎに注意深く耳を傾け、楽しそうな掛け合いが繰り広げられていました。
©NIFC
ファイナル直前に話を聞いた調律師さんが、「オーケストラとの共演には、大きな音を出しやすいエラールのほうが楽ではあるだろう。ただ逆にプレイエルを完璧に操れたら、この楽器を弾いて難しいことを知っている審査員からの評価は高くなるのでは」と話していたことが思い出されます。
実際その心理的な影響がどれほどだったかはわかりませんが、ショパンが愛したプレイエルでコンチェルトを見事に弾き切ったグオさんが頂点に輝く結果となりました。
結果発表の翌日に行われたガラコンサートでは、入賞者4名がそれぞれこのコンクールを締めくくる演奏を披露。
最後に登場したグオさんは、ショパンのピアノ協奏曲第1番、そしてアンコールにマズルカを演奏し、なめらかなレガート、湧き出すような自然な緩急で、楽器が何かということをむしろ忘れさせました。
グオさんは、ショパン研究所が企画した夏の講習会でフォルテピアノを弾き始めてから急速に楽器に慣れていったと回想しています。思い通りの音楽を表現するためには、「モダンピアノの音色を想像しながら弾いていた。ピリオド楽器も自分にとっては純粋にピアノで、弾いていて心地よく、時にはモダン楽器よりも好みの反応が得られた」とのこと。
今後はもちろんモダンピアノ奏者としての活動も今まで通り力を入れ、コンクールへの挑戦も続けるということなので、ピリオド楽器の経験がそちらに生かされる場面も見られるでしょう。これからの活動にも注目したいピアニストです。
《公演情報》
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサート
日時:2024年1月30日(火) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者(※後日発表)、鈴木優人(指揮)、バッハ・コレギウム・ジャパン
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2059/
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者 ソロ・リサイタル
2024年1月25日(木)19:00開演 静岡・アクトシティ浜松中ホール
2024年1月26日(金)19:00開演 兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
Concerts are co-organized by Adam Mickiewicz Institute / The Fryderyk Chopin Institute
Adam Mickiewicz Institute : https://culture.pl/jp/topic/asia https://iam.pl/en
The Fryderyk Chopin Institute : https://nifc.pl/pl