2023/11/21
ニュース
クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル 曲目解説をご覧いただけます!
クリスチャン・ツィメルマンのピアノ・リサイタル日本公演2023、今回のプログラムの大本命ともいえるシマノフスキ「ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op.10」を含む曲目解説(音楽評論家:原明美)を下記でご覧いただけます。
ツィメルマンが長いこと演奏したいと願い、2022年に録音した「シマノフスキ:ピアノ作品集」は、今秋、英『グラモフォン賞 2023』を受賞しました。ここに収録されているシマノフスキの「ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op.10」が、日本公演プログラムのフィナーレを飾ります。日本公演は、このフィナーレに向けてプログラムが組まれてきたと思わせるツィメルマンの素朴で繊細、エレガントかつダイナミックなシマノフスキの変奏曲、どうぞお聴き逃しなく。
曲目解説
原 明美(音楽評論家)
Akemi Hara
ショパン:夜想曲より (4曲)
ポーランドのワルシャワ近郊に生まれたフレデリック・ショパン(1810-49)の作品は、大半がピアノ曲だった。彼の天才的な創作力から生み出された数多くの名曲のなかで、夜想曲(ノクターン)は21曲ほど残されている。ショパンならではの繊細優美でロマンティックな味わいに満ち、従来の夜想曲の表現性を高めた作品となっているが、さらに、その歌謡的な性格は、ロマン派のピアノ曲における特色のひとつにもつながる。即ち、展開部を伴うソナタのような規模は求めず、旋律美が優先となるのである。今回は、次の4曲が演奏される。
第2番 Op.9-2:アンダンテ、変ホ長調。1830年~31年に作曲。ショパンの最も有名な夜想曲。そのロマンティックで甘美なメロディーは、のちにポピュラー音楽としてアレンジされ、映画「愛情物語」のテーマ曲にも用いられた。
第5番 Op.15-2:ラルゲット、嬰ヘ長調。1830~31年に作曲。この曲も、特に人気の高い夜想曲であり、優美で神秘的な曲想が印象深い。
第16番 Op.55-2:レント・ソステヌート、変ホ長調。1842~43年に作曲。即興的な書法で作られ、ショパン晩年の作風が色濃く出ている。
第18番 Op.62-2:レント、ホ長調。1846年に作曲。簡潔な曲想に始まるが、洗練された和声配置や、中間部での細かな動きなど、晩年のショパンの熟練した手法が注目される。なお、Op.62としてある2曲は、ショパンの最後の夜想曲であり、彼の存命中、最後に出版された。
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 「葬送」
ショパンは、ピアノ・ソナタを3曲残した。1839年に完成された第2番は、「葬送」または「葬送行進曲つき」とも呼ばれる。幅広い表現が盛り込まれると共に、古典的なソナタの伝統を打破するような大胆さが注目されるこの作品は、4楽章から成るが、第3楽章の葬送行進曲だけが先に作られており、この悲痛な楽章をもとに全曲が構想されたと考えられている。
第1楽章:変ロ短調。楽章全体の暗く不安な気分を集約したような、グラーヴェの序奏に始まった後、「ドッピオ・モヴィメント(2倍の速さで)」と指示された主部に入り、ソナタ形式で展開する。
第2楽章:スケルツォ。変ホ短調、3部形式。不気味な雰囲気の主部と、明るく甘美な中間部から成り、最後に中間部の楽想が回想される。
第3楽章:レント、マルシュ・フュネーブル。変ロ短調、3部形式。単独でも有名な葬送行進曲であり、暗く重苦しい葬送の行列が表現される。中間部では、天上の音楽のような美しいメロディーが現れる。
第4楽章:フィナーレ:プレスト。変ロ短調。短いながらも、不思議で独創的なフィナーレ。調があいまいな響きなど、時代を先取りする書法が注目される。
ドビュッシー:版画
フランスの作曲家、クロード・アシル・ドビュッシー(1862-1918)は、繊細で鋭い感性によって、水や光などの自然界、また、さまざまな風物を、独自の響きと書法で描き出した。1903年に完成された「版画」は、彼がピアノ曲において新しい様式を確立した最初の曲集とされており、次の3曲から成る。
第1曲「塔」:「ほどよく活発に」。1889年のパリ万国博覧会で、ジャワのガムラン音楽を聴いたときに受けた感銘に基づいて、作曲されたという。五音音階による東洋風の主題に始まり、それが微妙に形を変えて繰り返されるなかで、独特の雰囲気をかもし出す。
第2曲「グラナダの夕べ」:「ハバネラの動きで」。舞曲ハバネラのリズムに乗せて、スペインの古都グラナダの夕暮れを描く。スペインを訪れたことのなかったドビュッシーの、豊かな想像力と創造性が光る1曲。
第3曲「雨の庭」:「明瞭に、そして速く」。細かな分散和音が多用された技巧的な曲だが、先の2曲と同じく描写的でもある。その主題は、「ねんねよ、坊や」と「もう森へは行かないよ」という、フランスの二つの童謡の旋律に基づいている。
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 ロ短調 Op.10
ポーランドのティモシュフカ(現ウクライナ)に生まれたカロル・シマノフスキ(1882-1937)は、叙情的でロマンティックな作風を特色とする作曲家。ワルシャワ音楽院在学中に書きあげられ、師匠であるジグムント・ノスコフスキに献呈された「ポーランド民謡の主題による変奏曲」は、彼の最も初期の作品であり、ショパンやワーグナー、スクリャービンの影響を受けつつ、自己の作風を模索している時代のピアノ曲である。1900年に着手され、約5年をかけて1904年に完成されただけあって、書法が緻密で、高度な技巧を要する難曲であり、充実した規模を持つ力作となっている。そして、この変奏曲は、1906年2月にワルシャワで、ゲンリッヒ・ネイガウスのピアノによって初演された。ちなみにネイガウスは、シマノフスキの親戚であり、現代のピアニストのスタニスラフ・ブーニンの祖父である。
曲はロ短調により、短い序奏に続いて、素朴な主題が示される。この主題は、ポーランド南部の山岳地方の民謡に基づいているという。その後、全部で10の変奏が、切れ目なく続く構成となっているが、なかでも第8変奏と第10変奏は、特徴的である。冒頭から第5変奏までは、ロ短調で書かれ、第6変奏でロ長調に転じる。同じくロ長調の第7変奏から続く第8変奏は、ト短調の「葬送行進曲」である。「クアジ・カンパーナ(鐘の音のように)」という楽想表示が記され、まさに弔いの鐘の音が響くこの第8変奏は、1937年、ワルシャワでのシマノフスキの葬儀において、オーケストラによって演奏された。そして、第9変奏で再びロ長調となり、最後の第10変奏に入る。中間部に「ミット・フモール(ユーモアをもって)」と指示されたフガートの部分を含む、長大なフィナーレであり、スケールの大きな展開を見せながら、高らかに全曲を閉じる。
【全国公演日程】
クリスチャン・ツィメルマン・ピアノ・リサイタル 2023年日本公演
11/4 (土)柏崎市文化会館アルフォーレ
11/22(水)川商ホール(鹿児島市民文化ホール)
11/25(土)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
11/30(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール
12/ 2 (土)横浜みなとみらいホール
12/ 4 (月)サントリーホール
12/ 6 (水)水戸芸術館
12/ 9 (土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
12/13(水)サントリーホール
12/16(土)所沢市民文化センター ミューズ アークホール