2024/1/5
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岡本侑也 特別インタビュー!欧州楽壇の最前線で活躍する俊英のいま
執筆:宮本明
1月、来日するプラハ交響楽団とドヴォルザークのチェロ協奏曲で共演する岡本侑也。
1994年生まれ。俊英が揃うこの世代の日本のチェロ界のトップランナーの一人だ。
2013年からミュンヘンを拠点に活動を続け、近年はピアニストのクリスチャン・ツィメルマンの室内楽プロジェクトのピアノ四重奏やエベーヌ弦楽四重奏団との共演など、まさに世界の音楽界の最前線での活躍が注目を集めている。
「東京芸術大学の附属高校から大学に入った秋にミュンヘン音楽大学留学して、もう10年です。学部に4年、大学院をソロと室内楽で2年ずつ。現在はマイスタークラッセ(国家演奏家資格課程)というコースに在籍していて、それが来年の夏まで。あっという間でした。そのあとどこを拠点にするか、いま考えているところです。
ミュンヘンはとても暮らしやすくて、街の雰囲気も落ち着いていますし、治安もとてもよく、いままで危ない目にあったことはありません。素晴らしいオーケストラがいくつもあるし、大きなコンサートもたくさんあってオペラやバレエも。音楽的にもすごく充実しています」
クリスチャン・ツィメルマンとの室内楽プロジェクト
2019年秋、ピアニストのクリスチャン・ツィメルマンが企画した室内楽プロジェクトに抜擢され、ブラームスのピアノ四重奏でイタリアと日本でツアーを行なった(ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン/ヴァイオリン:マリシャ・ノヴァク/ヴィオラ:カタジナ・ブゥドニク)。
「その約半年前にジャパン・アーツの二瓶社長から突然電話をいただいて、室内楽に興味がありますかと聞かれました。そのときは誰とやるかは聞いていなくて、自分としてもソロ以外のレパートリーでも幅を広げていきたいと思ってたときだったので、ぜひ!とお答えしたのです。それがまさかのツィメルマンさんと!そのあと日本にいるときに、ランチをしながら面接というか、いろいろお話しました。ご本人の前でチェロを弾くというのはなかったですね。
何を話したか?ものすごく緊張していたので、何を食べたのかも覚えていません。
日本ツアーではブラームスのピアノ四重奏曲だけのプログラムでしたが(第2&3番)、イタリアではマーラーのピアノ四重奏曲も弾いていました。でもプラームスがあまりに白熱して、練習もマーラーまで手が回らないね、じゃあブラームスに集中しようということになったのです」
その練習というのが、かなり濃密だったそう。イタリア・ツアーの前にみっちり2週間ほどかけた。
「それだけなく、ツアーが始まってからも、公演のない日は毎日リハーサルをしていました。まったく妥協がないんですね。共演させていただいてから、自分も地道にコツコツ積み上げていきたいなと、さらに思うようになりました。
練習で印象的だったのが、意外にメトロノームを使ってテンポを確認すること。一方で、ゆっくり練習することを徹底していました。それはよく音を確認する作業になりがちですが、彼がよく言っていたのは、テンポ70パーセント、表現120パーセントということです。たとえゆっくり弾いでも、表現はいつもMAXで出し切るということですね。
そうすることで、すべて自覚して演奏できるようになる。いい練習方法だと思います。その後僕も取り入れています。」
もうひとつ印象的だったのが、出ている音はもちろんだけれども、ジェスチャーだったり表情だったり、視覚的にもすべてが音楽と一体になっていないと、お客さんは信じてくれないよとおっしゃっていたことです。
身体全身で表現するということですよね。全身で感じることを学びました。自分は放っておくとわりと冷静に弾いてしまうタイプなので(笑)」
素顔のツィメルマンは「普通のおじさん」だと親しみを込めて語る。
「普通のおじさんです(笑)。膨大な量のジョークを持っていて。イタリア・ツアー中、ペーザロからミラノまでクルマで移動したのですが、3~4時間ずっとジョークを飛ばして(笑)。
笑い転げてました。
納豆が好きで、納豆菌を手に入れて自分で作っていると言っていました。なんでも自分でやってしまう方なのですが、そういうこだわりは、彼が自分のピアノを運んでコンサートをすることにもつながっていると思いますし、彼を唯一無二の音楽家にしている部分だと思います」
プロジェクトは当初は1度限りの予定だったらしいが、ツィメルマンも手応えを得たのだろう。その後2021年、2023年と、ルクセンブルク、ウィーン、ルツェルン、パリなど世界中で共演を重ねて継続中だ。録音の計画も進行中というから期待して待ちたい。
エベーヌ弦楽四重奏団の客演チェリストとして
2023年、岡本はフランスのエベーヌ弦楽四重奏団の客演チェリストに迎えられ、ヨーロッパ・ツアーに同行した。2004年ARDミュンヘン国際コンクール優勝の、現代を代表する弦楽四重奏団。
「チェロのラファエル・メルランさんが2022年の秋から怪我でお休みされていたので、その代役です。みなさん人柄が素晴らしくて。すごくピュアで、人間関係がすごくクリーンな気がしますし、やりやすいです。
じつは僕は人生で弦楽四重奏をほとんどやったことなかったんです(笑)。大学院の室内楽では固定メンバーでずっと弦楽三重奏を勉強していましたから。やってみてわかったんですけど、弦楽三重奏だと3人ともソリスティックでもけっこう成り立っちゃうのですけど、弦楽四重奏は、絶対的なバランスが取れていないといけない編成なんですね。エベーヌで弾く前に勉強しとけよって話ですけど(笑)。
でも、こんなチャンスは二度とないだろうなと思って、全然知らない世界に飛び込みました。6月にパリで一度お試しの合わせみたいなのがあって、ありがたいことにとても気に入っていただけたのです。
7月の北欧から始まって、いろんなところを回らせていただきました。10月のベルリン・フィルハーモニーとか、11月のウィーンのコンツェルトハウス、12月のウィグモア・ホール……。
いきなり0から100に飛んだ感覚です(笑)。今までソロを重点的にやってきたので、バス・パートで音楽の底のほうから全体を支えるという経験は自分にとっては本当に新しい視点で、新鮮でした。
ツィメルマンさんとの室内楽の経験はあるものの、ピアノ四重奏だとバス・パートのチェロがピアノと重なっていることも多いので、ツィメルマンさんが作ってくださる流れに寄りかかることができたんです。
それが弦楽四重奏だと自分でゼロからバス・パートを作っていかなければなりません。新鮮ですが、やはり難しいことでした。それによってカルテット自体の印象も変わる大きな役割ですし、それだけに責任もあります。とても多くのことを勉強させていただきました」
郷愁のドヴォルザーク
1月にプラハ交響楽団と共演するドヴォルザークのチェロ協奏曲。この曲を弾くときにはいつもさまざまな思いがよぎるという。
「チェロのレパートリーを知りはじめた幼い頃から、ダントツで憧れていたのがドヴォコン。ずっと弾きたくてしょうがない曲でした。
人生のここぞという場面で弾いてきた曲でもあります。エリザベート王妃国際音楽コンクールの本選だとか(2017年・第2位)もドヴォコンでした。プラハのドヴォルザーク・ホールで弾かせていただいたのも印象深い思い出です。
ドヴォルザークが祖国を思う気持ちにいろんな感情が伴っている作品だと思うんですけど、自分にとってもいろいろな思い出が重なります。僕は10歳までバイエルン州のレーゲンスブルクで過ごしました(=大聖堂の有名な聖歌隊で歌っていたのだそう)。
ドナウ川沿いのこぢんまりした、自然も豊かな町です。そこから離れるのが、当時すごく寂しくて。この曲を弾いていると、郷愁というか、その頃のことをよく思い出して、いつも感慨深いです。」
チェコのオーケストラのドヴォルザークには独特の包容力があると語る。
「チェコは何度か訪れていますが、素朴で暖かい人柄の人が多くて、演奏にもそれが滲み出ているように感じます。独特の包容力。それがドヴォルザークにもとてもマッチしていると思うんです。
優しくて、押しつけがましさや威圧感がまったくないんですよね。ドイツだとときどき感じるんですけど……(笑)。
今度の公演でもきっとそういうサウンドが演奏会場を満たすのだろうと思います。そのあたたかい響きの中に僕の音色を溶け込ませることができたらうれしいですね」
《公演情報》
2024年新春、楽都プラハの名門オーケストラ&多彩な出演者が咲かせる大輪の華
プラハ交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2056/
2024年1月5日(金) 札幌コンサートホールKitara 大ホール □☆
2024年1月7日(日) ハーモニーホールふくい □☆
2024年1月8日(月・祝) 兵庫県立芸術文化センター □◎
2024年1月9日(火) 東京芸術劇場 コンサートホール □☆
2024年1月11日(木) サントリーホール ■
2024年1月12日(金) ミューザ川崎 シンフォニーホール □◎☆
2024年1月13日(土) いわきアリオス アルパインホール ■
2024年1月14日(日) サントリーホール □◎
□トマーシュ・ブラウネル(指揮) ■小林研一郎(指揮)
☆牛田智大(ピアノ) ◎岡本侑也(チェロ)
◆岡本侑也のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/yuyaokamoto/