2024/1/15
ニュース
~第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサートに向けて~ BCJ首席指揮者 鈴木優人へインタビュー!
ピリオド楽器のいろいろ。しかしじつは、大事なことはその少し先にある。
取材・執筆:宮本明
「よりエキサイティングなショパンになりますよ!」
指揮者・鈴木優人はそう言い切った。第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサートで、バッハ・コレギウム・ジャパンを率いて共演する。ショパンのピアノ協奏曲第1番&第2番。
「協奏曲というのは、ソロを立てているばかりでなく、ソロとオーケストラが同じ土俵に立って競う合うように弾くのが面白いわけです。でもショパンの協奏曲は、大編成のモダン・オーケストラにとってはちょっと物足りないというか、音が少ないし、フルパワーでぶつかり合うという精神状態にはならないんですね。それが、ピリオド楽器のオーケストラが伴奏することで、ソロとオーケストラががっぷり四つに組むことできる。とてもエキサイティングです。
2曲の協奏曲は、彼がまだ19歳、20歳の頃の作品ですから、このオーケストレーションでいいのかなというところもたしかにあるんです。でもそれも、モダンでやる時とピリオドでやる時ではちょっと違うんですね。今回、すごく新しいショパンに出会えるコンサートになると思います。フォルテピアノということはもちろんですが、どちらかというとピリオド・オーケストラであることのほうが、曲の印象に影響があるんじゃないかな」
バッハを中心に活動するバッハ・コレギウム・ジャパン。今年は1月に、ブラームスの《ドイツ・レクイエム》そしてこのショパンと、続けざまにロマン派の作品を演奏するのは興味深い。18世紀のバロックと19世紀のロマン派の作品。ピリオド楽器という観点から、それぞれの時代の楽器にはどんな違いがあるのだろう。
「19世紀は楽器の変化のテンポが上がってくるので、どの楽器がいいかというのが難しいんです。使える楽器のなかでいちばん良い選択肢が何か、美学的な選択と現実的な選択をどう考えるかというところでもあります。
弦楽器は、楽器そのものは18世紀ととくに変わらないです。弦はもちろんガット弦です。ガット弦の色合いは、ショパンのナイーヴな音楽にぴったりだと思います。まあ、当時はヴァイオリンといったらそれしかないわけですから当たり前ですけどね。人によっては時代やサイズの異なる楽器を選ぶメンバーもいると思いますが、ふだんバッハを弾くのと同じ楽器で弾くメンバーも多いはずです。
2曲とも1830年頃の作品なので、楽器も、これまでわれわれがやってきたベートーヴェンなどと近いですね。今年はブラームスやメンデルスゾーンもやりますけど、それよりも一歩手前という感じです。たとえば弦楽器のアジャスタなんかが出てくるのは、ここからまだ100年ぐらいあとのことです。 ただ、弓は違うんですね。先端が細いバロック・ボウに対して、古典派の時代にすでに真っ直ぐに近い形になって、ロマン派の時代だと、ちょっと毛が太くなったり。いちばん違うのは重さ・重心ですかね。
管楽器はほとんどが19世紀のオリジナル楽器です。バロック時代よりも状態の良いものが残っているので、オリジナルの楽器を使いやすいんです。バロック時代の楽器だと、吹きすぎると割れたりとかの原因になりがちですから、たとえばレコーディングには使うけれども、普段はレプリカを吹いているという人も多いです。
演奏ピッチはピアノに合わせるので、今回はA=430Hzです」
と、相変わらず、どうしても楽器そのもの、サウンドそのものに興味がいってしまうわれわれ聴き手。しかしじつは、大事なことはその少し先にあるのだという。
「時代ごとにもちろん楽器のディテールはいろいろ違うんですけれども、根本的に大事なのは、そういうことがもたらす考え方とか、音楽への対峙やアプローチの違いだと思います。たとえばもし僕らが旅先でヴァイオリンが壊れたり盗まれたりしてしまって、それでもコンサートをしなければならないとなったら、モダンの楽器を借りてでもやります。弦をガットに張り替えたりはすると思いますが、根本的には楽器が大事なのではなく、その楽器を選択している奏者の思い、音楽への向き合い方が、やっぱり音に出るんじゃないかと思うんですね。音程とか、いろいろ難しいところを調節しながら、耳のいい人たちがアンサンブルをすると、すごく楽しいということなんです」
自身が鍵盤奏者でもある鈴木優人だが、やはりバロックから古典が活動の中心で、「ショパン」のイメージはない。
「じつは大好きなんですよ! 家ではよく弾いてます。一度、急きょの代役でお客さんの前で《革命》を弾いたこともあります。
もちろん作品によりますけど、すごく強く歌わなくてもいい、漂いながら弾けるみたいなところがショパンの魅力だと思います。ただ、彼の楽譜にはグレーゾーンみたいなところもあって、モダンのピアノだとそれが全部、白日のもとにさらされちゃう感じがあるんです。それがフォルテピアノで弾くと、聴こえなくていい細部がうまく溶かされる。音色とか、固有の響きのなかでポーンと鳴るんですね。ショパン本人にとっては、当然こういうピアノで弾かれるべきものだったわけです。
ショパン国際ピリオド楽器コンクールが、そのことを世界中に教えてくれているというのはとても大事なことです。そしてそれ以前に、権威あるショパン・コンクールを主催している組織が、その権威を醸成したいのはなく、ショパンの音楽のさまざまなあり方を知ってほしいという思いが伝わってくる。勇気のいるアクションだったと思いますが、とても素晴らしい。これをひとつのムーヴメントにしたいですね」
ピリオド楽器ならではの、繊細なピアノと色彩豊かなオーケストラ。ぜひ会場で聴いてほしいと説く。
「生で聴かないとわからない響きがありますから。でも、あんまり鍵盤が見える席ばかり取らないで(笑)。今回われわれは、『エリック・グオさん vs オーケストラ』にするつもりは全然なくて、エリック・グオさんも一体となったバッハ・コレギウム・ジャパンという気持ちで音楽を作ります。オーケストラとピアノの融合というスタンスで生まれてくるものがあるはずなので、その全体の響きを聴いてほしいなと思います」
《公演情報》
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサート
日時:2024年1月30日(火) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:エリック・グオ(第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者)、鈴木優人(指揮)、バッハ・コレギウム・ジャパン
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2059/
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者 ソロ・リサイタル
2024年1月25日(木)19:00開演 静岡・アクトシティ浜松中ホール
2024年1月26日(金)19:00開演 兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
Concerts are co-organized by Adam Mickiewicz Institute / The Fryderyk Chopin Institute
Adam Mickiewicz Institute : https://culture.pl/jp/topic/asia https://iam.pl/en
The Fryderyk Chopin Institute : https://nifc.pl/pl