2024/1/15

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【上原彩子インタビュー】充実の40代をベートーヴェンと共に歩む

上原彩子

2022年6月「デビュー20周年コンサート」をチャイコフスキーとラフマニノフの協奏曲で飾った上原彩子は、その時点から30周年に向けての準備を着々と進めていた。そして生まれた大企画が、“ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏”!

Q. そう決意された理由は?

―これまでやっていないこと、家庭も落ち着いてきて心身共に余裕のある今だからこそできることは何だろう、と考えた結果、ベートーヴェンのソナタの全曲演奏に行き着きました。ベートーヴェンは子供の時から勉強してきましたし、デビューして以来協奏曲は全5曲、とりわけ第5番《皇帝》は演奏の機会を沢山頂いてきました。ソナタも全32曲の半分はリサイタルで弾いてきましたが、ここで全曲に取り組めば得られるものは非常に多いだろうし、私の音楽の幅も広がると思って、決意しました。

Q. どのようなシリーズになりますか?

― とにかくベートーヴェンのように少年時代から晩年まで、人生の大半をかけてピアノ・ソナタを書き続けた作曲家は他にいません。その過程を1曲1曲丹念に追って行きたいと考え、年に1回、作曲年代順に数曲ずつ、8年をかけて行うことにしました。年1回にしたのは、ベートーヴェン以外の作曲家も弾く機会が欲しいと思ったからです。ベートーヴェンのソナタを参考にして曲を作っている人は多いし、反対にベートーヴェンが影響を受けた作曲家、バッハ、ハイドン、モーツァルトなどを弾くことも大切だと考えました。

Q. すでにソナタの全曲を見通されている今、ベートーヴェンの音楽に対してどのような考えをお持ちですか?

― ベートーヴェンは常に新しい挑戦を行っていて、1曲毎に明快な意図があるということが、全曲弾いてみて分かってきました。ベートーヴェンは同じOp(作品番号)に2〜3曲並べる場合が多いのですが、1曲毎にキャラクターが全く違います。これは続けて弾くからこそ分かることで、しかもごく初期のソナタからそうなのです。

上原彩子

Q. その第1回目のコンサートが2024年3月9日(土)に開催されます。その曲目と作品毎のキャラクターをご紹介くださいますか?

― 演奏するのはOp.2のソナタ第1番、第2番、第3番と、番号は大きいですが同時期に書かれた第19番、第20番です。Op.2はウィーンに出てきて間もない若いベートーヴェン(22〜25歳)が師ハイドンに献呈した作品群ですが、すでに自分のカラーをはっきりと出しています。
第1番は、この約10年後に書く《熱情》と同じ調性(へ短調)で書かれていて、彼自身先のことが見えていたのかどうかは分かりませんが、強い共通性があります。第2番はウィーンのロココと言うか、優雅で社交的な雰囲気があり、グラッツィオーソという新しい形式も取り込み、華やかな技巧をふんだんに入れて自分のピアノの腕を見せています。第3番は協奏曲的に華やかで大規模な作品です。「さあ、これから世の中に出ていくぞ!」と言っているような前向きで、自信に溢れた曲で、暗さは全くありません。第19番、第20番はお弟子さんのために書かれた愛らしいソナタなので、ちょっと“箸休め”的な感じですね。

Q. ベートーヴェンの演奏で特に心掛けていることはありますか?

― テンポ感、でしょうか。ベートーヴェンのテンポをどう捉えるかはずっと研究しています。速すぎず、遅すぎず、作品の息遣いと私の呼吸がぴったり合うようにバランスを取りたいです。意志の強さが伝わるような演奏を行うことも、重要です。ソナタでは自分の全てが出てしまうので、それが怖いところです。

Q. 3人のお子さんを育てながら第一線のピアニストとして活躍されてきました。そうした人生体験は上原さんの音楽にどう影響していますか?

― 何がどう影響しているかは分かりませんが、自分のピアノが変わった、と感じることはあります。若い時は視野が狭く、音楽もまっすぐ前だけを見て進めるのが精一杯でしたが、今はより自由に弾けます。曲全体のテンポ感を自分の中で統一できるようになった、とでも言いましょうか。テンポを揺らしても元に戻れる、これはソナタの演奏では特に大切なことです。

上原彩子

Q. お子さんたちは今度の「ベートーヴェン・シリーズ」を何と言われていますか?お母さんすごいね!とか?

娘たちは上から17歳、14歳、13歳ですが、受験や部活などで毎日忙しく、私の仕事には無関心です。私が自分のことを何も言わないせいもありますが。この「ベートーヴェン・シリーズ」のことも、下の子は近所のピアノの先生から聞いて知った位で。どうも親は遊んでいるみたいに思っているらしく、私が練習に疲れて昼寝でもしようものなら「ピアニストってのんびりできて良いよねー」、なんて言われます。(笑)本当はもうちょっと気を遣ってもらいたいんですけど、、、

おおらかで暖かい家庭を築きながら、人並外れた練習量と研究心を持って常に前進し続ける上原彩子。ベートーヴェンと一体になった演奏に期待が高まる。

(きき手 ひのまどか)


《公演情報》
上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1

上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1
2024年3月9日(土) 14:00 東京文化会館 小ホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2068/

ベートーヴェン:ピアノソナタ
第1番 ヘ短調 Op.2-1
第2番 イ長調 Op.2-2
* * *
第19番 ト短調 Op.49-1
第20番 ト長調 Op.49-2
第3番 ハ長調 Op.2-3

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