2024/5/30

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サー・サイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団 フランクフルト公演(4月21日アルテ・オーパー)

 11月に6年ぶりの来日ツアーを予定するバイエルン放送交響楽団。23/24シーズンより首席指揮者に就任したサー・サイモン・ラトルとともに、今年は創立75周年を迎えます。
 ここでは、意欲的なプログラムで圧巻の感動を巻き起こした、フランクフルト公演の様子をお届けいたします。


バイエルン放送交響楽団は、4月19日、20日に創立75周年記念のミュンヘン公演を大編成の「シェーンベルク:グレの歌」で終えたところ。
フランクフルトの劇場、アルテ・オーパーでは、下記のプログラムが演奏された。

 ヒンデミット:組曲「1922年」 ラグタイム Op.26-5
 ツェムリンスキー:交響的歌曲 Op.20(バリトン:レスター・リンチ)
 マーラー:交響曲第6番

ヒンデミットのラグタイムは、バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第一巻 3声のフーガ ハ短調の主題を基本にしており、「ラグタイム」のリズムの中、旋律がわかりやすく各セクションをいったりきたりする。オーケストラの素晴らしいキレの良さ、金管が木管と同じように溶け込んで聴こえる各セクションのバランス感、あの明るく美しい音色に耳を奪われ、バイエルン放響を再び聴ける歓びを感じつつコンサートがスタート。

続くツェムリンスキーの管弦楽作品はサーカスティックな内容の歌詞がベースになっており、バリトンのレスター・リンチはオーケストラとは初共演ながら、独特な色合いを帯びた声と表現力でその悲哀や怒りを表現。オーケストラも音を聴いているだけで物語が聴こえてくるような演奏で、音楽家一人一人の作品に対する理解の深さが伝わってくる秀演だった。

前半が終わったところで、馴染みのない作品でさえまったく力まず軽やかに、明瞭に、しかし表現のツボは押さえて演奏するこの楽団の世界トップレヴェルの音の美しさ、そしてコンサート全体の音楽の流れとしてとても自然なプログラミングに深く納得させられ、後半がますます楽しみになった。

後半はマーラー:交響曲第6番「悲劇的」。ドイツのオーケストラでもあるし、やはり直線的な攻めた演奏で始まるのだろうか・・・とイメージするも、その予想は最初の数小節であっという間に覆されてしまった。どんなに重く強い音でも、美しく、明瞭に響き、こちらが一瞬も気をそらすことができないほどの新たなアイデアが繰り広げられる。ラトル氏から紡ぎだされる多彩なアイデアに対して、オーケストラメンバーそれぞれが歌をもって応える―膨大な量の歌が飛び交う中で一つの音楽が展開される。かつて首席指揮者として楽団を大きく飛躍させた、マリス・ヤンソンス時代の温度感は1℃も下げずに、ラトル氏とのしなやかで美しい一体感を保ったまま新しい時代に突入したことを確信させられる演奏だった。

日本公演で演奏されるマーラー:交響曲第7番は、かつてヤンソンスも得意とした作品。ラトル氏がどのようなアプローチで挑むのか期待が膨らむばかり。同時に予定されているブラームス:交響曲第2番、そしてブルックナー:交響曲第9番(コールス校訂版)も、必聴の演奏となるに違いない。
今回とりわけ強く感じたのは、サイモン・ラトルという指揮者の奥深さ、並外れた力量と共に、音楽をベースに、互いを強く愛してやまない温かい楽団との関係だった。この音楽を介した関係性は、ヤンソンスの時代から正しく引き継がれた伝統といえるだろう。

バイエルン放送交響楽団のアーティストページはこちら
https://www.japanarts.co.jp/artist/brso/

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