2024/6/3
ニュース
ピアニスト金子三勇士&バレエダンサー柄本弾 特別インタビュー【前編】
8/8(木)13:30東京オペラシティコンサートホールにて開催の『金子三勇士の「弾む♪ワルツ」~名曲バレエ音楽の世界~』。公演に先駆け、コンサートにトークゲストとしてお招きする東京バレエ団プリンシパルの柄本弾(つかもと・だん)さんと、金子三勇士による、対談インタビューをお届けします。
【前編】今だから話せる、踊りと音楽のこと
取材・文:高橋彩子
――誕生日が4日違いの同い年であるお二人。例えば金子さんがバルトーク国際ピアノコンクールに優勝された2008年に柄本さんは東京バレエ団に入団されるなど、転機の時期にも重なるところがあります。10代、20代と年齢を重ねてきて、今だからこそ他のジャンルの人と話ができるという感覚はありますか?
柄本: あります。若いうちは作品にしろ振付家にしろ初めて体験することばかりで、周りに目を向ける余裕は全くなかったのですが、今は経験を積んだことで少し余裕が出てきました。ただ、演奏される方と一つの舞台を作り上げるということはやってきたものの、じっくりとお話ししたことはなかったので、今回のトークをとても楽しみにしているところです。
金子:こういう年齢になったからこそ、他のジャンルの方との交流やコラボレーションへの視点が出てきたというのは絶対にありますね。私が最初にバレエの方と共演したのは、2012年の世界バレエフェスティバル『椿姫』。確か海外のピアニストの方が急遽来日できなくなり、曲が私のレパートリーであるリストの《ピアノソナタロ短調》だったことから代役をお引き受けし、そこからバレエ公演にたびたびお声掛けいただくようになりました。いざやってみると、頭の中でイメージする踊りと目の前でダンサーの方が踊られる中で見えてくるものがいかに違うかを実感させられて。しかも、こちらが少し違うテンポを提示するだけで、ダンサーの方は息切れして大変なことになってしまう。そういう経験をすることによって、踊りに対する印象や意識の仕方、そして曲自体に対する私のイメージも変わりました。今回のコンサートではお客様に、そういうところに意識を向けていただく機会になればと考えたんです。
――柄本さん、テンポの話で大きくうなずいていらっしゃいましたね。
柄本:ダンサーからすると、テンポは本当に大事なところ。同じ演目でも主役を踊るダンサーによって好みのテンポが違うので、指揮者の方にそれを把握してもらい、踊りやすいよう演奏していただいています。絶対、演奏家の方には嫌がられているだろうな、と思いながら、「すみません、でもこのテンポで!」と(笑)。
金子:嫌がるなんてとんでもない。演奏家のほうこそ、ダンサーの皆さんの足を引っ張っていないか、とんでもないことを引き起こしてはいないかと、最初はドキドキしているんですよ。と同時に、ダンサーの方によって作品を作り上げるアプローチが違うのがわかると面白くて。僕の経験では、フランスからいらした方々は練習の時に「too fast」「too slow」などとスピードをメインにおっしゃるのに対して、ロシアやドイツの方々は「ここに来た時にこの小節になっていてほしい」「このジャンプがある時にこのフレーズに入っていてほしい」など全体像をおっしゃることが多かったです。テンポで言うなら、ロシアやウクライナから来た方々はあまりブレることなく毎日同じような感じで踊られるのですが、フランスの方は日替わりで色々なことが変わっていくので、緊張しましたね。これはピアニストのタイプと共通するところがあるかもしれません。
――柄本さんは、色々な国で踊ったり、様々な振付家の作品を踊ったりする中で、音に関する感覚の違いをどう感じていますか?
柄本:僕は“純国産”ですし、バレエ団のツアーで海外に行って踊る場合は生演奏ではなくテープ音源を使うことが多いので、国による違いはよくわからないのですが、振付家によって音の取り方は様々ですね。1から10まで、例えばジャンプだけでなくマイムに至るまで全て音と共に決める振付家もいれば、ここの音で終わらせてこの音の時にこれをやれば、自分の得意なジャンプにしてよかったり、マイムを比較的自由に任せてくれたりする振付家もいます。そういう自由度の高い作品、振付家の方の場合は余計に、ダンサーによる違いが大きいので、演奏家の方は合わせるのが大変なのではないでしょうか。
――ダンサーとして、音楽に対する感じ方が変わったというような経験はありますか?
柄本:踊ったことのある作品とない作品では、使われている曲への思い入れは全然違いますね。踊ったことのある作品の場合、曲を聴くとその作品のその役のその時の心境になる。それだけ身体に染み込むと、演奏される方によって聴こえ方が違うこともよくわかって、「こういう風に聴こえたから、ダンサーとして次はこう踊ってみたい」といった具合に表現の幅も広がります。
――踊るとなると本番までずっとその曲を聴くことになるわけですが、うんざりしたりは……?
柄本:リハーサルで何十回、何百回と聴き、ツアーで何度も本番をこなすので、さらに朝のレッスンでもピアノの方がその曲を弾かれたら、ちょっとイヤになりますね。なんでクラスでまでそれを流すんだろう!?って(笑)。ちなみに、ずっと踊っていた作品の音楽は、その場面の振付はすぐに出てくるけれど何の曲だっけ?ということもあります。
金子:柄本さん同様、音楽家も、弾いたことがある曲とない曲では聴こえ方も感情移入する度合いもまるで違います。さらに、一回ダンサーの方とご一緒して踊りを見てしまうと、演奏する度にその踊りが出てきてしまい、自分の曲の解釈もその時の踊りのテンポになっていくことがある。これが、多分いい意味での変化でして。それまでピアノという狭い世界の中で見てきたのが、急に広い視野で作品と向き合うきっかけを、踊りとのコラボレーションでいただいて、作品の色々な可能性が見えるようになったんです。
続きは後編へ・・・
https://www.japanarts.co.jp/news/p8568/
<公演情報>
アフタヌーン・コンサート・シリーズ2024-2025
金子三勇士の「弾む♪ワルツ」~名曲バレエ音楽の世界~
日時:2024年8月8日(木)13:30
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:金子三勇士(ピアノ)、米元響子(ヴァイオリン)、上村文乃(チェロ)
トークゲスト:柄本弾(バレエダンサー/東京バレエ団プリンシパル)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2083/
◆金子三勇士のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/miyujikaneko/
◆米元響子のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/kyokoyonemoto/
◆上村文乃のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/ayanokamimura/