2024/6/3
ニュース
ピアニスト金子三勇士&バレエダンサー柄本弾 特別インタビュー【後編】
―【前編】今だから話せる、踊りと音楽のことー
https://www.japanarts.co.jp/news/p8567/
【後編】エピソード豊かな演奏曲
取材・文:高橋彩子
――今回のコンサートで演奏する曲も、そうした体験をもとに組まれたのでしょうか。
金子:そうですね。せっかく柄本さんに来ていただけるので、お話が繋がるような曲、そして当然、バレエに関係がある曲、そして、ピアノとヴァイオリンとチェロという編成でできるもの、という3つの観点でリストアップしました。バレエ音楽の多くはオーケストラの作品が多いので限られてくる部分はあるのですが、できるだけバラエティーに富む選曲にしたつもりです。
――演奏曲について少しだけ聞かせてください。例えば《月の光》はいわゆるバレエ曲ではないですが、どういう理由で選ばれたのでしょう?
金子:コンサートの当日に詳しくお話ししようと思っているのですが、バレエとのコラボレーションによって私自身の作品へのイメージが大きく変わった印象深い曲なんです。それと同じような体験を皆さんにもしてほしいという思いで、トークを挟みながら、ピアノソロとトリオバージョンの両方を聴いていただきます。
――柄本さんはこの曲を金森穣振付『かぐや姫』の中で踊られましたね。音楽を全てドビュッシーで統一した作品でした。
柄本:はい。『かぐや姫』は1幕を発表した1年半後に2幕を初演し、そのあと全幕通して上演するまでに、リハーサル期間を入れるとトータルで2年半以上かかっています。なので、それだけドビュッシーの音楽に触れる時間も長かったですね。僕が演じた道児とかぐや姫には、1幕に《月の光》のピアノヴァージョンを使ったパ・ド・ドゥがあって、さらに2幕に《月の光》のオーケストラバージョンでのパ・ド・ドゥが、2幕だけ初演した時にはなかったのですが全幕を初演した時に追加されたんです。一つの作品の中で同じ曲を2バージョン踊るというのはなかなかないことなので、今回のコンサートでも2バージョン聴けるのは嬉しいですね。穣さんからは「音楽を聴いて音楽を感じろ」とずっと、公演後にまで言われました。再演が決まっているわけではないのですが、普段から音楽を感じているようにとずっと言われていたので、もっと細かいところまで聴き取れるような耳を持たなきゃいけないな、と。金子さん達の演奏を聴かせてもらうことによっても、また新しい発見は絶対にあると思うので、わくわくしています。
――プロコフィエフの有名なバレエ曲《ロミオとジュリエット》(「3つの小品」より)も演奏されますね。
金子:《ロミオとジュリエット》は柄本さんから事前にコメントをいただいて、ぜひ取り上げたいなと思いました。今回、ヴァイオリニストの米元響子さん、チェリストの上村文乃さんとの共演も初めてですし、加えて、踊らないダンサーの方を前にしてバレエ音楽を弾くのも初めてなので、また新しい発見は絶対にあると思います。
柄本:プロコフィエフは好きな作曲家なんです。バレエの中でもドラマティックなものが好きなのですが、特に『ロミオとジュリエット』はその代表みたいな作品ですから。曲を聴くと、自分が踊ったロミオの気持ちにすんなり入っていきます。その分、悲しい気持ちになってしまったりもするので、純粋に音楽を楽しめるかどうかはわかりませんが、リクエストして叶ったわけですから、僕が一番ラッキーな聴衆です!
金子:プロコフィエフって、良くも悪くもちょっと情緒不安定ですよね。この人の中で色々な感情が揺さぶられているんだな、と感じさせられる音楽で、結果、私達も揺さぶられてしまう。彼が生きていた時代背景や政治情勢を考えれば無理もないと思います。その信念や政治への反発心などに加えて、ちょうど音楽の歴史が大きく変わる時でしたので、新しさを含め様々なものを備えている気がしますね。
今だからこそできること
――30代半ばに近づいているお二人。それぞれの世界でプロになられて10数年が経った今、ご自身の表現というのをどういうふうに捉えていますか?
柄本:バレエの世界では、30代半ばともなるともう若手ではなく、どちらかというとベテランに入っていく世代。僕は有難いことに結構早い段階から役をつけていただき、沢山の舞台を踏ませてもらってきました。最近は、ストーリー性を重視される役どころや悪役なども踊る機会が増えました。そういう役で個性が光れば、王子も際立ってくるも思いますし、色々な形で良い舞台を作っていきたいですね。バレエに育ててもらったと思っているので、これからはバレエを知らない人に知ってもらうきっかけになるような場に積極的に出ていきたいですし、指導者としてもスタートし始めたので、上の世代から習ったものをこれから先の世代に伝えて、後輩を育てていくことも考えていきたいです。
金子:日本でデビューして12年が過ぎたのですが、いまだに若手と言われます。確かにデビュー10年なんて、クラシック音楽のピアノの世界ではやっとスタートラインに立ったところなので、いよいよここからという感覚ですね。自分がやりたい方向、やるべきことにフォーカスして全力投球できる年齢になってきたという実感があります。と同時に、私経ちの世代が今経験している世の中の様々な出来事や変化、進化のスピードもしっかり見ておきたい。時代の先端で、音楽家として、社会に向けて生の音楽の良さを発信し、次の世代に向けて色々なものを残していかなければと思いますし、そういう体験ができる場も増やしていきたいですね。
<公演情報>
アフタヌーン・コンサート・シリーズ2024-2025
金子三勇士の「弾む♪ワルツ」~名曲バレエ音楽の世界~
日時:2024年8月8日(木)13:30
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:金子三勇士(ピアノ)、米元響子(ヴァイオリン)、上村文乃(チェロ)
トークゲスト:柄本弾(バレエダンサー/東京バレエ団プリンシパル)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2083/
◆金子三勇士のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/miyujikaneko/
◆米元響子のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/kyokoyonemoto/
◆上村文乃のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/ayanokamimura/