2024/6/28

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【インタビュー】諏訪内晶子

諏訪内晶子

2024年秋は「ブラームスの季節」
ディスクとリサイタル両面で

取材&執筆:池田卓夫
(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

2020年、諏訪内晶子はヴァイオリンを20年来の〝相棒〟だったストラディヴァリウスの「ドルフィン」 (1714) からグァルネリ・デル・ジェズの「チャールズ・リード」 (1732) に替えた。翌2021年、新しい楽器でJ・S・バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全6曲を録音(デッカ=ユニバーサル ミュージック)、ドイツ音楽の領域に大きな一歩を記した。2023年10月には同じ楽器、同年の日本ツアーでも共演したブルガリア人エフゲニ・ボジャノフのピアノでブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ」全3曲の収録を終え、ドイツ音楽へのさらなる取り組みの成果を問う。2024年9月の日本ツアーは米国のピアニスト、オライオン・ワイスにパートナーを替え、同じブラームスのソナタ3曲で全国を回る。

――バッハ「無伴奏」のディスクやコロナ禍中の日本で演奏したベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」を聴き、デル・ジェズが諏訪内さんの音楽に一層の進化を与え、意図がよりはっきり、聴き手にも伝わるようになったと感じました。

「デル・ジェスの場合、普通に弾くだけではストラディヴァリウスのように特徴ある音が出ませんので、より明確な自分の音の方向性、音楽づくりが必然となったのです」

――ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ」は《雨の歌》の愛称を伴う第1番に限らず、3曲それぞれが自作の歌曲(リート)と深く結びついていて奥の深いジャンルです。

「ニューヨークのジュリアード音楽院修士課程修了後しばらくして、1990年代の終わりにベルリン芸術大学(UDK)の学術博士課程に試験編入しました。弦楽器担当のウヴェ・ハイベルク先生は『楽器を〝弾く〟行為によって音楽が遮られ、器楽奏者の身体から乖離していく』という考えの持ち主で生徒全員、リートを習わなければなりませんでした。演奏活動が忙しくなり、すべての必須課程は終えていたものの、最後の実技試験だけが残っていて、UDKを卒業できていませんでした。コロナ禍で時間に余裕のできた2020年に最後の実技試験を受けられるかどうか、卒業の可否を問い合わせると『まだ大丈夫です、どうぞ』と。2020年の卒業試験時はコロナ禍で学校自体も閉鎖になり、翌年の同時期に改めてファイナル試験を受けて卒業しました。ようやく心残りがなくなった時点でハイベルク先生の教えが強く思い出され、『歌』を遮られている自分に気付いたのです。米国時代の教育にはなかった視点でした。ブラームスのように深く、様々な歌の要素も伴う作品を演奏するとき、ベルリンでテノール歌手の先生から受けたリート歌唱のレッスンが大いに役立ったことは、言うまでもありません」

――実演でも録音でもシゲル・カワイのピアノを愛用、低い椅子に腰かけ腕を下から上に動かすボジャノフさん。キャラクターや演奏の傾向がグレン・グールドに似ています。

「ツアーで回るよりもレコーディングを好み、セッションで全てを出せる点だけでなく、何度もテイクを重ね、その全部を何度も聴いて完成させるまでの執念においても、グールドに近いものがあります。最初ベートーヴェンを考えていたら突然、『あんまり弾いたことがないけど、ブラームスにしよう』と言い出しました。音楽のスイッチが入るといっさい会話せず音楽に没入、周囲を振り回しますが、独自の個性に疑いの余地はありません。結局、完成までに1年を費やして、良いアルバムに仕上がったと思います」

――9月の日本ツアーのピアニスト、ワイスさんはすでにアルノー・シュスマンのヴァイオリンで同じ3曲の録音をリリース(Telos Music)、そこではボジャノフさんとはかなり異なる個性を発揮しています。

「1人の世界をつくりがちなピアニストの世界にあって、ワイスさんはとても協力的ですね(笑)セルゲイ・ババヤンさん(筆者注:1961年アルメニア生まれのピアニストで第1回浜松国際ピアノコンクール優勝、現在は米クリーヴランド音楽院で後進の指導にも当たる)の弟子でもあり、共通の友人がたくさんいます。ジェイムズ・エイネスさんやアウグスティン・ハーデリヒさんらヴァイオリニストとの共演も多く、すごく忙しいので早めにスケジュールを押さえました。ブラームスのソナタはピアノも大変に重要、ピアニスト次第で演奏が大きく変わります。私は相手に抵抗するよりも、影響される方を好むヴァイオリニストだと思いますから、ディスクとはまた違った演奏をお楽しみにいただけるはずです」


諏訪内晶子 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集
(ピアノ:エフゲニ・ボジャノフ)

▼CDの試聴が可能です。


オライオン・ワイス

<公演情報>
稀代のヴィルトゥオーゾで聴く、透徹のブラームス
諏訪内晶子&オライオン・ワイス デュオ・リサイタル
2024/9/6(金) 愛知県芸術劇場コンサートホール
2024/9/7(土) 大垣市スイトピアセンター 文化ホール
2024/9/8(日) ミューザ川崎シンフォニーホール
2024/9/12(木) 東京オペラシティ コンサートホール
2024/9/14(土) ザ・シンフォニーホール
2024/9/15(日) 西条市総合文化会館 大ホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2093/

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