2024/8/30

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インタビュー:佐藤美枝子に訊く 前編

岸 純信(オペラ研究家)

岩田達宗プロデュース 佐藤美枝子の「ルチア」より狂乱の場
写真提供:トリトン・アーツ・ネットワーク ©大窪道治

 この10月、ベッリーニの《海賊》と《清教徒》、ドニゼッティの《アンナ・ボレーナ》と《ランメルモールのルチア》といったベルカントオペラの名作群から、「四大狂乱の場」を一気に歌い上げるソプラノ、佐藤美枝子。生まれは大分県。武蔵野音楽大学を卒業後イタリアで研鑽を積み、1995年に第64回日本音楽コンクールで優勝して一躍時の人となり、1998年にはチャイコフスキー国際コンクール声楽部門で第1位を獲得し名声は揺るぎなきものに。爾来、国内外で幅広く活躍する「プリマドンナ中のプリマドンナ」なのだ。

 オペラ歌手佐藤の美点は幾つもあるが、中でも見事なのが「集中力」と「表現の大きさ」。小柄なソプラノなのに、大柄な男性陣に囲まれても声の力で際立ち、身ごなしも雄弁で臆するところがない。この7月の「佐藤美枝子の《ルチア》」(《ランメルモールのルチア》抜粋:岩田達宗演出/第一生命ホール)のステージも、そのイメージをより濃くするものになった。何せ、この〈狂乱の場〉を何十回と観てきた筆者が、生まれて初めて「怖い」と感じたのだから。「えっつ?何だ?いまの?」― 心でそう呟いたぐらい、ピュアな声音と不思議な笑みのコントラストにぞくっとなったのだ。

 ここで、佐藤自身の言葉をご紹介。まずは演技面から。「演出家の岩田達宗さんは、私の師匠なんです。日本音楽コンクールで一位を頂いたとき、オペラのリハーサルと時期が重なり、新人なのにオペラの稽古にはしばらく出られませんでした。それで、演出家の先生がひどく怒られ、私は一度も稽古をつけてもらえず、演出助手の岩田さんが、マンツーマンで教えて下さったんです。両腕の肘の位置や歩き方など全て教わって、それ以来のご縁なんですね。ですので、『四大狂乱の場』も岩田さんの演出でお願いしました。衣裳も四着作ります。生地を岩田さんと一緒に選び、役の個性や時代背景に添うものにしたいと思っています!」

 なるほど。そんなに強い繋がりあっての信頼関係なのだ。では一つ質問を。演出が付く一方で、佐藤自身はヒロインたちの心理をどう分析するのだろう?

 「そうですね。正直なところ、いま一番分からないのは(笑)、《清教徒》のエルヴィーラです。恋人が突然いなくなった悲しみを、格別に美しい音楽を通じてどう表現すべきか、時間をかけて考えています。一方、先ほど話題にでた《ルチア》だと、兄から政略結婚を強いられる境遇に共感しやすいです。私自身も、叩き上げの人間であった父親との関係に子供の頃から悩んでいました。音楽の道をずーっと反対されて、母が庇ってくれて、妹も大変な思いをして・・・ごめんなさい、この話をするとどうしても涙が出るんですよ・・・でも、その父が、私がコンクールで優勝したらいきなり豹変し、『俺のお陰だろ!』とあちこちで自慢し始めました(爆笑)」

 なんと分かりやすいお父上!でも、そのお陰で、「人間を知る面白さ」が佐藤の芸術観により強く響いたのかもしれない。(後編へ続く)

フォトギャラリー 2024年7月6日(土)第一生命ホールで行われた佐藤美枝子の「ルチア」より
写真提供:トリトン・アーツ・ネットワーク ©大窪道治

第一幕 ルチア:佐藤美枝子

第一幕 ルチア:佐藤美枝子 エドガルド:清水徹太郎

第一幕 ルチア:佐藤美枝子 エンリーコ:黒田博

第一幕ライモンド(家庭教師):久保田真澄 ルチア:佐藤美枝子

狂乱の場 左から ライモンド:久保田真澄、エンリーコ:黒田博、
ルチア:佐藤美枝子 右:ノルマンノ:所谷直生

狂乱の場 ルチア

狂乱の場 クライマックス

カーテンコール 左から ライモンド:久保田真澄 演出:岩田達宗
エドガルド:清水徹太郎 ルチア:佐藤美枝子
ピアノ、合唱、アリーサ:河原忠之 ノルマンノ:所谷直生


佐藤美枝子

≪公演情報≫
狂乱 KYO-RAN 響蘭
佐藤美枝子 ソプラノ・リサイタル
日時:2024年10月12日(土) 15:00
会場:紀尾井ホール
出演:佐藤美枝子(ソプラノ)、河原忠之(ピアノ)、岩田達宗(演出)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2094/


◆佐藤美枝子のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/miekosato/

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