2024/8/30

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インタビュー:佐藤美枝子に訊く 後編

岸 純信(オペラ研究家)

佐藤美枝子

<前編はこちら>

 日本が誇るプリマドンナ、佐藤美枝子の飾らぬ言葉は続く。

 「境遇って突然変わりますよね。小学生の頃、地元の大分市から別府市に引っ越して、また別府から大分市内に戻るなど転校を繰り返したんです。すると、環境がどうしても違ってきて、中学時代はかなり暗い日々でした。でも、小学六年生の時点で、高校は音楽専門のコースに進むと決めていましたので、目標があってそこは良かったなと。だから、王妃アンナ・ボレーナの心境には共感を覚えます。ある日急に、周囲の人の数が少なくなるんだな、と・・・また、《海賊》のイモジェーネの胸中も分かります。家族を援けるために結婚したら死んだと思った恋人が生きていたなんて・・・辛い辛い日々の中で、自分を保っている彼女の精神状態は、ひとつ線が切れたらもう終わってしまうわけじゃないですか」

 確かに、四大狂乱の場といっても、ヒロインそれぞれがどうして錯乱するか、その理由はまったく異なる。だからこそ、作曲家も新しい楽想を得られ、劇的でも美しい音楽が幾つも生まれるのだ。ところで、〈狂乱の場〉を歌うためのベルカントの発声法について、いまの佐藤は、なにを一番伝えたいのだろう?

 「チャイコフスキー・コンクールの前に松本美和子先生に観て頂きました。それまで私は日本人の発声で『口を開けて、押して歌っていた』のですが、ヨーロッパの歌手は前歯からドーム状に口を開けるんです。だから、身体で響きを作るのではなく、体の外で声のポジションを作りなさいと先生は教えて下さり、それが上手く出来たなら、中音域から下の声も、そのポジションをキープしたまま歌えるからと仰りました。要は声ではなく、響きです。自分の身体をきちっと全て使えたならば、身体の大小は関係なくなりますよ。だって、チャイコフスキーの出場者は皆、私の倍ぐらい大きい人ばかり。最下位を覚悟して舞台に立っていたんです(笑)」

こんな風に、佐藤の熱意は、客席に集う皆様を鼓舞するもの。聴き手も随分ほだされた。

「私が神のように崇拝するマリア・カラスは、伝えたいことを歌声に全部込めていますよね。私もそうありたくて励んできました。でも、音楽の表現って、突然、瞬間的に生まれることもあるんです。今回のピアニスト河原忠之さんとなら、本番の最中でもそうした『新発想のキャッチボール』が出来ます。それに、岩田達宗さんの演出も付きますから、オペラは初めてのお客様にも楽しんで頂けます!」 

10月の本番を皆さまに楽しんで頂けたなら。最後に、名歌手の日常をちょっとだけ公開。

「パスタを毎日食べます。子供の頃からパンやパスタばかりで『出した和食を食べなさいよ!』って母に怒られ通し(笑)。ただ、勝負『飯』というものが私にもありまして、カレーライスなんです。昔、食べて調子が良かったことがあったようで、それ以来、本番前日は何が何でもカレー。スパイシーなインド流ではなく、欧風の普通のカレーライスを必ず食べますね・・・でも、こんな話で纏めていいのかしら?(笑)」 

もちろん。誰かの参考にきっとなるはず。改めて、〈四大狂乱の場〉にこうご期待!


佐藤美枝子
≪公演情報≫
狂乱 KYO-RAN 響蘭
佐藤美枝子 ソプラノ・リサイタル
日時:2024年10月12日(土) 15:00
会場:紀尾井ホール
出演:佐藤美枝子(ソプラノ)、河原忠之(ピアノ)、岩田達宗(演出)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2094/


◆佐藤美枝子のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/miekosato/

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