2014/3/12

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モダンなアプローチでクラシックに新たな魅力を注ぐ、エリート集団

 ウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーによって結成されたから「ザ・フィルハーモニクス」。明快すぎるネーミングだが、冷静に考えると、こんな贅沢なユニットは滅多に存在しない。ブラームスやドヴォルザークと、ピアソラやチック・コリアを、同じジャンルの音楽であるかのように、軽快にエキゾチックに演奏するスタイルは、あっと驚く音楽の愉悦に満ち溢れている。地元ウィーンでは既に凄い人気で、コンツェルトハウスで行われる公演は毎回ソールド・アウト。彼らの音楽を聴きたいウィーン子がホールの外にはみ出してしまうほどの熱狂なのである。
 「2007年の日本での演奏旅行のとき、しゃぶしゃぶを食べながら、エーデン・ラーツ(コントラバス)と「こんなことやりたいね」と話していたんだ。最初は雲をつかむような感じだったんだけど、僕たちがやりたかったのは、時代を越えて広く楽しめる音楽。オーディエンスの生き生きとした反応に励まされたよ」1stヴァイオリン担当のティボール・コヴァーチ(ウィーン・フィル)はこう語る。
 「演奏家にとってのリアリティは、時代とともに変わってきている。昔とは演奏の方法が変化してきて当然だと思うよ。僕らより上の世代の団員は、i-phoneがメトロノームとして使えることも知らないと思うし」と、エーデン・ラーツ(ウィーン・フィル)。
 昨年10月にはサントリーホールの「オープニング・フェスタ」での演奏が大好評だった彼らだが、確かに弦楽器のボーイングも、ピアノもクラリネットも、ものすごくエレガントで軽やかだ。独特のユーモア・センスもある。
 「ウィーン・フィルの演奏を見ていると、とても憧れるよ。すごくスマートで、スピーディに走るスポーツカーみたいだよね。ベルリン・フィルは、もっと燃費が悪いんだ(笑)」と語るのは、かつてウィーン・フィルで演奏し、現在はベルリン・フィルで首席チェリストとして活躍するシュテファン・コンツ。
 「僕は逆にベルリンに生まれてウィーン・フィルに入ったから、両方の良さを知っているつもりだよ(笑)。メンバー全員家も近いし、兄弟がみなミュージシャン、という共通点もあるね」とヴィオラのティロ・フェヒナー(ウィーン・フィル)。有名な父と兄弟をもつクラリネット奏者のダニエル・オッテンザマー(ウィーン・フィル)も、音楽一家の出身だ。
「父(エルンスト)も僕もマエストロ・オザワと仕事をしたんだよ。弟(アンドレアス)はベルリン・フィルだけどね」
ザ・フィルハーモニクスの音楽を特徴づけているのは、さらに大胆なミクスチャー感覚だ。卓越した才能をもつロマ系のヤーノシュカ兄弟をメンバーに加えることで、エキゾチックで東欧的な熱狂をサウンドに加味している。
 「結婚式などで親戚が集まると、300人全員がミュージシャンなんだよね。実は、僕はピアノを練習したことがないんだ。「演奏した」ことしかないんだよね」と語るフランティシェク・ヤーノシュカは、2002年のリスト国際ピアノコンクールの優勝者。体格のいいボディで椅子に腰かけ、指先だけを敏捷に動かす余裕のプレイが、本当にかっこいい。弟のローマンはヴァイオリニストで、兄はフランティシェクと共にラカトシュクと共演を重ねている。
 演奏家としてはまさにエリート中のエリート。彼らが集まっただけで、何とも楽しくて浮き浮きとした昂揚感が湧き上がる。オフステージでもとても仲が良く、お互いが大好きでたまらないといった雰囲気だ。モダンなアプローチで、クラシックの新しい魅力を教えてくれるザ・フィルハーモニクス。最高の感性とテクニックが醸し出すスペシャルなグルーヴに、早く会いたい! 

小田島久恵(音楽ライター)

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ウィーン・フィル公認の“7人のヴィルトゥオーゾたち”
ザ・フィルハーモニクス

2014年06月20日(金) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール

ザ・フィルハーモニクス

公演の詳細はこちらから

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