2024/10/29

ニュース

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • noteで書く

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

いよいよ12月来日!パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年を迎えたドイツ・カンマーフィル、現地ブレーメンでの記念公演レポートをお届けします!ベルリン在住の音楽ジャーナリスト、中村真人さんによるレポートです。まもなくP.ヤルヴィのインタビューも到着予定。どうぞお楽しみに。

ドイツ・カンマーフィル管弦楽団
パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)

 2024年4月11日、パーヴォ・ヤルヴィがドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の芸術監督に就任してから20周年を祝う記念コンサートが、ブレーメンで行われた。
 筆者が聴いたのはその初日。本拠地のホール「ディ・グロッケ」の前にはレッドカーペットが敷かれ、20年という今日では異例の長期間におよぶこのコンビを地元の人たちと共に祝いたいという心意気を感じた。

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

写真提供:中村真人

 この日中心となった演目は、シューベルトが10代の頃に書いた交響曲第1番と第2番。オーケストラの定期演奏会で、この2曲がメインを飾ることはそうない。だが、古典作品をツィクルスの形で取り上げ、常にそこから新鮮な魅力を引き出してきた彼らならば、間違いなく面白いコンサートになるだろうという予感があった。そして、その期待は見事に叶えられた。

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

写真提供:ドイツ・カンマーフィルハーモニー交響楽団
(写真は2024年4月24日公演のもの)

 第1番ニ長調の第1楽章では、主部に入ってからの音楽の推進力が心地よい。翌日、ヤルヴィにインタビューした際、彼は歌いながらベートーヴェンの交響曲第1番、そして《英雄》のプロメテウスの主題との類似性を挙げてくれたが、確かにここには同じ世界がある。その一方、シューベルトならではのみずみずしい歌も第2楽章や続くメヌエットから聴こえてくる。ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルの演奏は、作曲家がどういう背景から曲を書き、そこからどう進化させていったのか、まるで創作の現場を覗き見るような刺激に富んでいる。フィナーレは春の雰囲気にあふれ、意表を突いたティンパニの強打などメリハリが際立ち、初期作品とは思えない堂々たる締めくくりとなった。

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

写真提供:ドイツ・カンマーフィルハーモニー交響楽団
(写真は2024年4月24日公演のもの)

 第2番変ロ長調では、冒頭から弦楽器が目まぐるしく動き回る。ここではドイツ・カンマーフィルの弦セクションの名人芸がきわだつ。第2楽章の変奏曲では、絹のようになめらかな木管から低弦に主題が受け継がれてゆく、場面転換の妙が印象に残った。速いメヌエットを経たフィナーレは、ユーモラスかつ喜びの精神にあふれ、ほとんどハイドンの世界。そんな感想をヤルヴィに伝えたら、「まさにそうです」と嬉しそうに即答された。彼らは現在ハイドンの交響曲プロジェクトに取り組んでいるので、その精神が体に染み込んでいるのだろう。
 合間に演奏されたブラームスのヴァイオリン協奏曲も、ヴェロニカ・エーベルレの独奏ともども素晴らしかった。中でも第3楽章はバロック的壮麗さに満ちており、このコンビの演奏で聴くと、いかにブラームスが古典から養分を吸収しようとしたかがよくわかる。20周年記念にふさわしい祝祭でホールは満たされた。
 この日は特別な晩ということで、終演後、聴衆も招かれてオーケストラのメンバーと歓談する機会が設けられた。演奏中の嬉々とした表情が印象的だった、ヴィオラのあるメンバーに話しかけてみた。なんと1980年の楽団創設時から弾いているという。「ここに来る前、私はベルリン・フィルのアカデミー生としてヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮で何度も弾いたのですが、そこでの雰囲気があまり好きになれませんでした。私たちは何か新しいことをしたいと思ったのです」
 筆者はカラヤンも好きだけれど、彼女が言おうとしていることはよくわかった。オーケストラ大国のドイツにおいてなお、ドイツ・カンマーフィルが異色の存在であり続けているのは、そもそもは既存のアンチテーゼから出発した精神がいまも息づいているからだろう。20年を経てもなお、パーヴォ・ヤルヴィとのコンビはフレッシュな魅力を放つ。

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

写真提供:中村真人


《公演情報》
SEKIDO クラシックシリーズ
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
2024年12月8日(日)16:00 横浜みなとみらいホール [ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)出演]
2024年12月9日(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
2024年12月12日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2097/

[そのほか全国公演日程]
12月7日(土)熊本県立劇場コンサートホール [ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)出演]
12月10日(火)文京シビックホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
12月13日(金)所沢市民文化センター ミューズ アークホール
12月14日(土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
12月15日(日)iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 パーヴォ・ヤルヴィ芸術監督20周年記念公演レポート

【インタビュー】パーヴォ・ヤルヴィ

ヒラリー・ハーン


◆パーヴォ・ヤルヴィのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/paavojarvi/
◆ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/dkambremen/

ページ上部へ