2024/11/1
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サカリ・オラモがBBCプロムスのラスト・ナイトに登場!
2025年2月、フィンランドが生んだ名指揮者サカリ・オラモが、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団を率いて来日ツアーを行います!オラモ氏は、2013年からイギリスのBBC交響楽団の首席指揮者も務めており、今年のBBCプロムスでは音楽祭の大トリである最終夜の「ラストナイト」に登場しました。超満員の観客の、熱狂の様子をお届けいたします。
Last Night of the Proms 2024
取材・執筆:高坂はる香(音楽ライター)
ロンドンの夏の風物詩、BBCプロムス。今シーズンは、ヤクブ・フルシャ指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団との共演で藤田真央がBBCプロムスデビューをしたり、山田和樹指揮、バーミンガム市交響楽団がサー・ヘンリー・ウッド編曲版の「展覧会の絵」で会場を沸かせたりと、日本の音楽家の活躍もたびたび話題となった。
音楽祭全体も過去最高の盛り上がりで、会期中の来場者は30万人超、チケットの平均販売率は昨年を上回る96%を記録したという。
7月19日から8週間にわたり行われた音楽祭を締めくる「BBCプロムス ラストナイト」は、9月14日に開催された。
指揮は、2013年からBBC交響楽団の首席指揮者を務めるフィンランド人のサカリ・オラモ。音楽祭期間中に、首席指揮者として次の5年の契約更新が発表され、両者は記念すべき2030年のBBC交響楽団100周年も共にすることがわかったばかりだった。
サウス・ケンジントン駅からロイヤルアルバートホールに向かって歩いていくと、コンサートに行くらしいユニオンジャックの旗を手にした人を見かけるようになっていく。ジャケット着用で正装をした人、イギリス国旗が大きくあしらわれた服に身を包んだ人も見かけたが、多くはカジュアルな普段着姿だ。
BBCプロムスは世界最大の歴史ある音楽祭であると同時に、誰でも気軽に足を運べることをコンセプトとしているだけに、ホールの中は賑やかなお祭りムード。それぞれがビールやワインを片手に開演を待ち、アリーナ席には床に足を投げ出して、まるでピクニックのようにくつろぐ人の姿も。投げ込まれたバルーンをみんなでつついて遊んでいたり、ジェット風船を飛ばす人がいたり、音楽を通じて集った大人がコンサートへの高揚感とともに、思い思いに楽しんでいた。
今年のラストナイトでは、イギリスを代表する作曲家や定番のレパートリーに加えて、アニバーサリーを迎える作曲家たちも取り上げられた。
幕開けは20世紀イギリスの作曲家、ウォルトンが自ら約100年前にプロムスで指揮したこともある、序曲「ポーツマス岬」。続けて登場したグラミー賞受賞のアメリカのソプラノ、エンジェル・ブルーは、没後100年を迎えたプッチーニの名アリアをダイナミックに歌い上げた。
続くBBCによる委嘱作品の「Hellfighters’ Blues」を作曲したカルロス・サイモンもアフリカ系アメリカ人作曲家。世界初演が目一杯盛り上がったところに、没後100年のフォーレから「パヴァーヌ」で郷愁を誘われる。
生誕150年のアイヴスや、ロンドンに生まれ、西アフリカのクリオ人を父に持つサミュエル・コールリッジ=テイラー、20世紀イギリスに生きBBCにも勤務した女性作曲家、グレース・ウィリアムズなど、イギリスにゆかりがあり、
かつ多様性を保ったラインナップが取り上げられていた。なかでもウィリアムズの「Fantasia on Welsh Nursery Tunes」では、オラモの細やかなタクトにBBC交響楽団が応え、お祭り気分の中、束の間、柔軟なファンタジーの世界を堪能できた。
サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」終楽章では、イギリス生まれのピアニスト、サー・スティーヴン・ハフをソリストに、エキゾティックな香りたっぷりの音楽が披露された。
ホールに熱気が満ち溢れるなか、ここで25分間の休憩。イギリスのコンサートホールでは、会場でアイスクリームが売られているのが一般的らしいが、この日もムンムンの熱を一度クールダウンするように、子供からお年寄りまで、多くの人がスプーンでアイスクリームをつつきながら談笑する様子が印象的だった。
そして始まった後半、客席に置く形で配られたリストバンドが一斉に光り、エリアごとにコントロールされて色を変えたり点滅したりする。ポップスなどのライブでは時々ある演出らしいが、とにかく綺麗で気分があがる!
BBCプロムス、曲に合わせてどこかでコントロールされてピカピカ光るリストバンド、たのしいー pic.twitter.com/y519rq4WKu
— 高坂はる香(音楽ライター) (@classic_indobu) September 14, 2024
BBCの委嘱作品、イアン・ファリントンの「Extra Time」世界初演に続いては、ハフの「In His Hands: Two Spirituals」が演奏され、彼の作曲家としての顔も取り上げられた。会場みんなで指を鳴らしたマンシーニの「ピンクパンサー」で、一体感が生まれる場面もあった。
そしてここからはBBCプロムス・ラストナイトの定番曲の数々。
ラストナイト初代指揮者でもあるヘンリー・ウッドが編曲した「イギリスの海の歌によるファンタジア」、トーマス・アーンの「ルール・ブリタニア!」で、客席の高揚感はマックス。オラモは、エキサイトした状態で高速手拍子をする膨大な数の聴衆を背後に、しっかりとオーケストラを統率し、この音楽祭を幾度も経験してきた指揮者ならではの手腕を発揮していた。
そして第二の国歌とされるエルガーの行進曲「威風堂々」第1番。起立した聴衆は、ユニオンジャックだけでなく各人が思い思いの旗を振り、「希望と栄光の国」を口ずさむ。アンコールがオルガンの壮大なサウンドと共に奏されると、客席は「おかわり、待っていました!」という雰囲気。アンコールをするのは定番なのだそうだ。感動せずにいられない瞬間だった。
さらにヒューバート・パリーの「ジェルサレム」、国歌「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」などが続き、祖国と呼べる地があることの尊さを思った。
燕尾服の中にユニオンジャックのベストを身につけていたオラモは、オーケストラはもちろん、約7千人の聴衆を一つにまとめ上げるべく、全身で音楽を表現していた。イギリス人以外でこのラストナイトの指揮台に立った人は、約130年の音楽祭の歴史の中で未だ5人のみだという。伝統を尊重しつつも、キレの良い自分の音楽をしっかりと打ち出していくオラモのスタイルは、ロンドンの聴衆から深く愛されているのだろう。
オラモは公演の終わり、「みなさん来年もこの場所にいてくれますか?」と客席に声をかけ、「Auld Lang Syne(蛍の光)」で締めくくった。
1年後は平和の戻る地域が増えていてほしいという思いと、音楽祭の熱気に身をさらした後の高揚感とともにホールを後にした。
【公演日程】
2025/2/9(日) 所沢市文化センター ミューズ ☆
(問)ミューズチケットカウンター 04-2998-7777 詳細をみる
2025/2/10(月) サントリーホール ☆
(問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212 詳細をみる
2025/2/11(火・祝) ザ・シンフォニーホール ★
(問)ザ・シンフォニー チケットセンター 06-6453-2333 詳細をみる
2025/2/12(水) サントリーホール ★
(問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212 詳細をみる
2025/2/13(木) 東京オペラシティコンサートホール ☆
(問)東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999 詳細をみる
2025/2/15(土) 豊田市コンサートホール ★
(問)豊田市コンサートホール 0565-35-8200 詳細をみる
2025/2/16(日) 横浜みなとみらいホール ☆
(問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212 詳細をみる
☆藤田真央 ★諏訪内晶子