2024/11/14

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サー・サイモン・ラトルがバイエルン放送交響楽団とマーラー交響曲第7番を演奏!―ミュンヘンより―


11月8日 イザールフィルハーモニーでの公演の様子

2024年11月8日 ミュンヘン イザールフィルハーモニー・イン・ガスタイク HP8にて
演奏曲目:
バートウィスル:吹奏楽とパーカッションのためのドナム‧シモーニ MMXVIII(サイモンへの贈り物2018)
マーラー:交響曲第7番

取材・執筆:Antoine Lévy-Leboyer
(アントワーヌ・レヴィ=ルボワイエ)

サイモン・ラトルがバーミンガムでマーラーの交響曲第7番を初めて指揮したのは、まだナイトの称号を授与される前の1980年のことだ。当時としては大胆なことだったろう。
オーケストラはマーラーの音楽に今のようには馴染んでいなかったため、骨の折れる仕事であったに違いない。今日でも音楽家たちはこの交響曲が有名な第2番や第9番とは同列に語れないと見下す傾向がある。

ラトルの見解は明らかに違う。彼はこの交響曲を何度も取り上げ、バーミンガム市交響楽団のツアー・プログラムに載せてきた。1990年代にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、1991年にはボストン交響楽団で指揮し、もちろんベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者時代にも演奏した。

ラトルがこの作品に強い愛着を持っているのには理由がある。第6番や第9番のように有機的に構築されていれば建築的なセンスがものをいうが、この曲は違う。もっと過激で、ほとんど各小節に驚きが待っているような作品だ。壮大なハ長調のフィナーレを除けば調性は曖昧で、連続性もそれほど重視されていない。「夜の歌」という副題はマーラーに由来するものではなく、音楽を矮小化して聴衆に「簡単な」表題音楽であると思わせてしまいがちだ。オーケストラからリヒャルト・シュトラウスのような豊かな響きを引き出すことに喜びを感じる指揮者よりも、ピエール・ブーレーズのように現代音楽に優れた指揮者達の方がこの作品を頻繁に演奏するのは驚くにあたらない。

ミュンヘンに着任以来、ラトルはマーラーの作品をいくつか取り上げてきた。これらは新しい録音のシリーズになるため、この日もステージの上には無数のマイクが設置されていた。
実はラトルはこの日以外に、マーラーの交響曲第7番を2度録音している。1990年代にバーミンガム市交響楽団と録音したものと、2021年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したものだ。そのうえで、昨日(注11月8日)の演奏から判断すれば、今回はさらに特別な録音が期待できそうだ。

この日、マーラー:交響曲第7番のテンポは以前の演奏よりもやや速めだったが、オーケストラの色彩とアーティキュレーションが損なわれることはなかった。第1楽章冒頭の和声的なテクスチャーは豊かで深みがあったが、これにはテナーホルンのルカス・ガスナーの貢献が大きい。終盤の再現部直前の絶妙なアッチェレランドは非常に効果的だった。第1の「夜の音楽」はエッジの効いた演奏で、クラリネットのシュテファン・シリングとホルンのパスカル・ドイバーのデュオは素晴らしかった。スケルツォは不気味な雰囲気で、ベテランのヘルマン・メニングハウスのヴィオラ・ソロも見事だった。第2の「夜の音楽」はコンサートマスターのラドスワフ・ショルツが脚光を浴び、弦楽器群が広いダイナミックレンジを披露した。
マーラーがコントラバスのパートを実にうまく書いていることをラトルは何度も気づかせてくれたし、多種多様な表現の見せ場が来る度に楽しんでいるようだった。バイエルンだけに、賑やかな喜びに溢れたマイスタージンガー風のロンド・フィナーレに、私たちはオクトーバーフェストが終わってからまだ1ヶ月しか経っていないことを思い出したのだった。


11月8日 イザールフィルハーモニーでの公演の様子

交響曲の前に演奏されたバートウィッスルの「ドナム・シモーニ MMXVIII」(サイモンへの贈り物2018)は、木管、金管、パーカッションのための興味深い曲である。サー・サイモンのために書かれたこの曲の短い時間の中で、バートウィッスルは25人の演奏者のための多彩な可能性を見せている。これはまさに、マーラーという予期せぬ音の世界への、ふさわしい前奏曲だった。

ラトルはマーラーをスコアなしで指揮し、この曲を完全に掌握していることを示した。聴衆の反応はとてつもなく激しく、熱烈な拍手は長く続いた。ラトルはいつも作品に貢献した団員をひとりひとり立たせるが、今回は自ら彼らの席に歩み寄り握手を交わした。演奏会の後で地下鉄を待つ間、そこで出会った何人もの演奏者が実に楽しい演奏だったと語ってくれた。

ラトルと彼のオーケストラ、それにソリストを務めるピアニストのチョ・ソンジンは、間もなくアジアツアーにでかけ、ブラームス、ブルックナー、ワーグナー、ウェーベルン、リゲティの音楽、そしてまさにこのプログラム(マーラー:交響曲第7番)を演奏する。
聴きのがしてはいけない!40年以上にわたって傑作を探求する指揮者と、このような傑出した名門オーケストラの組み合わせなど、めったに聴けるものではないのだから。


富士電機スーパーコンサート 
サー・サイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団

https://www.japanarts.co.jp/concert/p2087/
11月26日(火)19:00 サントリーホール(予定枚数終了)
 ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調Op.83 [ピアノ:チョ・ソンジン]
 ブラームス:交響曲第2番ニ長調 Op.73
11月27日(水)19:00 サントリーホール(残席僅少)
 リゲティ:アトモスフェール
 ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
 ウェーベルン:6つの作品 Op.6
 ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より“前奏曲”“愛の死”
 ブルックナー:交響曲第9番(コールス校訂版)

【全国公演日程】
*マーラー:交響曲第7番 演奏会場
2024/11/23(土・祝) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール *
 (問)芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255 詳細をみる
2024/11/24(日) ミューザ川崎シンフォニーホール
 (問)ミューザ川崎シンフォニーホール 044-520-0200 詳細をみる
2024/11/26(火) サントリーホール
 (問)ジャパンアーツぴあ 0570-00-1212 詳細をみる
2024/11/27(水) サントリーホール
 (問)ジャパンアーツぴあ 0570-00-1212 詳細をみる
2024/11/28(木) NHKホール (NHK音楽祭2024) *
 (問)NHKプロモーション 音楽祭係 03-3468-7736 詳細をみる
2024/11/29(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール *
 (問)中京テレビクリエイション 052-588-4477 詳細をみる

【CD情報】
マーラー:交響曲 第7番 ホ短調「夜の歌」
サー・サイモン・ラトル(指揮)、バイエルン放送交響楽団
CD: 900225JP オープン価格 初回限定生産盤・日本語解説付 2024年12月13日発売予定
録音:2024年11月6-8日 ミュンヘン、イザールフィルハーモニー・イン・ガスタイク
HP8(ライヴ)
NAXOS JAPAN

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