2024/11/18
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【インタビュー】山田和樹に訊く!バーミンガム市交響楽団日本公演に寄せて
— マエストロとCBSOとの出会いについて教えてください。
出会いは、2012年のことでした。プログラムは、ラヴェルのマ・メール・ロワ組曲、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番(ジェームス・エーネス)、リムスキー=コルサコフのシェヘラザードでした。
イギリスのオーケストラはリハーサルが1日しかないのが通常なので、あっという間に終わってしまった印象でしたが、それでもかなり手応えのある演奏会で、以来2年おきに共演する関係になりました。
— 首席客演指揮者→首席指揮者→音楽監督と、時間とともにオーケストラとの関係を深めていらっしゃいますが、マエストロとオーケストラのミュージシャンは現在どのような関係を築いていらっしゃいますか? また、これまでの時間の流れの中で関係性はどのように変化してきていますか?
指揮者とオーケストラの関係は、よく恋愛にも例えられます。最近では、一度の共演でいきなり音楽監督になったりという、いわゆる「一目惚れ」のケースも世界中でよく見られるのですが、僕とCBSOの関係はそうではなく、長年の恋を温めてきた末に結婚に至ったという感じですね。
モンテカルロフィルでは監督として「父親」的な部分を求められますが(団員は僕のことをマエストロもしくはボスと呼びます)、CBSOでは「パートナー」として対等な関係を築いています(団員はKazukiと呼びます)。
また、よくあるケースで、結婚に至った時が幸せの絶頂、つまり音楽監督に就任した時が一番良い時で後は、、、となってしまうことも危惧してはいたのですが、そうなるどころかさらに上昇曲線を描いていることを実感しています。
CBSOとの共演ではいつも感じていて、言葉にもしていますが、本当に世界で一番幸せな指揮者だとつくづく思います。
これまでも、ラトルさん、オラモさん、ネルソンスさん、ミルガと名だたる指揮者と共に歴史を作ってきたCBSOですが、いつも僕の音楽の解釈をすんなりと受け入れてくれるのも本当に嬉しいことです。
互いにリスクを取り合える関係、というのは最高の関係だと思います。
— CBSOと目指しているものは何でしょうか?そして今回の日本ツアーでCBSOのどんな魅力を聴いて欲しいか教えてください。
最高の演奏、というのはもちろんなのですが、本当に一番大事にしているのは、お客さまとのハートフルなコミュニケーションだと思います。毎回毎回の演奏会が一期一会であり、その時々に最高の演奏をお贈りする、もっと言えば、一緒に作り上げていくスタンスを大事にしています。例えば、交響曲などで楽章間に拍手をしないのがマナー化していますが、地元バーミンガムでは、自然に起きた拍手を逆にもっと促すようなこともしています。マナーよりも先に「楽しむ」気持ちを優先しようという想いに溢れたオーケストラです。
そんな訳で、今シーズンのメインテーマも、スバリ「Joy!」です。頭で考えるよりも先に心で感じて欲しい、そう思って日本ツアーでも演奏します。
— ツアーのソリスト(河村尚子、シェク=カネイ・メイソン、ユンチャン・イム)の魅力についてお聞かせください。
河村尚子さんとは、盟友というか親友というか、共演する時はお互いに特別なものになるように努めている関係ですね。僕の方が年上なのですが、僕は尚子さんのことを「姉さん」と呼び、尚子さんは僕のことを「兄さん」と呼ぶ面白い間柄です。つまりはお互いに尊敬し合っていると言えるでしょうね。尚子さんは、ドイツ育ちながらも日本人の感性を生かした瑞々しい演奏が魅力と言えるかと思います。その人柄と共に、音楽もチャーミングな側面を持ちます。
シェクは、バーミンガムで一度共演した際に、すっかり大好きになってしまい、今回の日本ツアーのソリストに強引に推薦したような次第です。たくさんいる兄弟姉妹全員が音楽家という特別な環境で育った彼ですが、本当に実直でひたむきに真摯に音楽に向かう素晴らしい演奏家です。その音楽にはいつも情熱と魂が込められていて、こちらの心が揺さぶられないはずがありません。今回のツアーで日本の皆さんにシェクをご紹介できることをとても嬉しく思っています。
ユンチャン・イムはニューヨーク・フィルで初めて共演するのですが、およそすべての人が「彼は素晴らしい!」と手放しで絶賛する存在なので、どんな化学反応が生まれるのか本当に楽しみです。すっかり大スターで大忙しの彼なので、今回の日本ツアーのためにスケジュールを確保できたこと自体が嬉しい驚きでした。彼の集中力は本当に驚異的だと思います。
— 今回のプログラム(特に、展覧会の絵、チャイコフスキー5番)の聴きどころを教えてください。
「展覧会の絵」は、よく演奏されるモーリス・ラヴェル編曲のものではなく、イギリス人のヘンリー・ウッド編曲のものを聴いていただきます。
ラヴェル版に慣れた皆さまには、数々の衝撃をお届けできることと思いますが、実はウッド版のほうがラヴェル版より先行して作曲・初演されていて、おそらくラヴェルはいくつかの場面でウッド版からの影響を強く受けているのだろうなと推察されるのです。つまり、数ある「展覧会の絵」の編曲の中でも、ウッド版は”元祖”と言えるものなのです。ウッドさんの名前は日本では馴染みがないかも知れませんが、あのロンドン・プロムス音楽祭の創始者というとイメージしやすいでしょうか。プロムス、つまりはプロムナードコンサート。街歩きをしている人がふらりと気軽に聴ける演奏会というアイディアだったのですが、「展覧会の絵」もまさしく”プロムナード”から始まります。音楽の散歩、あるいは音楽における絵画鑑賞を一緒に楽しんでいただけたらと思います。
チャイコフスキーの第5交響曲は言わずとしれた名曲であり、解説は必要としないと思いますが、私自身はここ10年近く演奏していません。というのも、私の師匠である小林研一郎先生の十八番(オハコ)であり、圧倒的な師の演奏に触れながら、自分で指揮をするということがどうしても憚られた作品だからです。しかし今回は、永遠に越えられない師に出会えた幸せを感じながらも、CBSOとだったら自分なりの新しいアプローチを生みさせるかも知れないと思い、勇気をもって日本ツアーの曲目に選びました。CBSOともチャイコフスキーの5番は初めて演奏します。どんな演奏になるのか今から本当に楽しみです。