2024/11/29
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【インタビュー】ティロ・フェヒナーに訊く/フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン
柴田克彦(音楽ライター)
ウィーン・フィル&ベルリン・フィルのメンバーとその仲間たち7名による魅惑の凄腕アンサンブル「フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン」が、12月に日本公演を行う。そこで、ヴィオラのティロ・フェヒナー(ウィーン・フィル奏者)に、グループの特徴や今回の日本公演の見どころを聞いた。
─ まずはフィルハーモニクスの結成の経緯や主旨をお話し頂けますか?
メンバーの多くは幼稚園の頃からの知り合い。そうした友だち同士で普段のオーケストラとは異なる楽しい音楽をやろうというのが、結成の主旨です。いわばサッカー好きが自然発生的に集まったグループのようなもの。だからこそ簡単に他の奏者と代えることはできないのです。もちろん他に類のない編成であることは間違いありません。ただしこの編成のための曲はないので、私たち自身で編曲して演奏しています。
─ 普段の活動状況は?
年間40~45回のコンサートを行っています。その内ウィーンでの定期演奏会が3回。ウィーンでは3年に1回ジルベスター・コンサートを開き、夏にウィーンの代表的なバロック建築ベルヴェデーレ宮殿の庭での野外コンサートも行っていますが、その他は全てツアーです。コンサートのオファーはもっとありますし、ウィーンではフィルハーモニクスの定期会員になるにも順番待ちの状況です。メンバーは皆それぞれのオーケストラ活動があるので、これ以上増やすのは困難です。しかもリハーサルが大変。オーケストラのコンサートの前に2時間位やることが多いのですが、時間を効率よく使う必要があります。場所は大体ウィーンです。
─ グループの中心的な人物はいるのでしょうか?
メンバーにはそれぞれの役割分担があって、クラリネットのオッテンザマーはプログラム、チェロのコンツとヴァイオリンのギュルトラーは作・編曲、ヴァイオリンのベンディクス=バルグリーはスケジュール管理、ピアノのトラクスラーは会計、私はCDおよびビデオの意匠やメディアを担当しています。
─ フィルハーモニクスの音楽的な特徴とは?
ひと言でいえば“ウィーン=ベルリン・ミュージック・クラブ”。ただしそれは皆が歳を重ねて成熟したものです。今度バルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)の音楽のCDをリリースするのですが、全てギュルトラーが作曲した素晴らしい音楽です。どれもが基本的に3~4分の音楽。シェーンベルクやバルトークを取り上げることもありますし、クイーンやジャズを演奏したり、ベートーヴェンをスウィングで演奏したりもします。でも大作曲家の曲を必ず入れるようにしていて、先日はブルックナーのアダージョ楽章を演奏しました。もちろん短縮版ですが、作品に対して違う観点での編曲をしていますので、新しい感触を得ることができます。つまり入門編としても応用編としても、さらにはお子様にも楽しんで頂けます。
─ 今回の日本公演のプログラムの特徴は?
色々な国を旅する内容です。12月ですのでクリスマスの音楽が中心ですが、これは今回の日本ツアーだけのプログラム。クリスマス・ソングも、街中で耳にするような派手な曲ではなく、クリスマスの香りが漂う美しい音楽ばかりです。最新のCDに入っているギュルトラー作曲の「バルチック・クリスマス」はぜひ聴いてほしい曲。坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」は日本公演ならではです。また有名なクラシック作品も、皆さんが初めて耳にする新しい編曲でお届けします。前に聴かれている方も新鮮な感覚でお楽しみ頂けます。とはいえ、かしこまって静聴するようなコンサートではなく、皆がリラックスして楽しめるのは間違いありません。それにチェロのコンツがピアニカを吹くといった演出もありますのでお楽しみに。
─ 最後に日本のお客様へのメッセージを
もしウィーン・フィルとベルリン・フィルのどちらのチケットを買うか迷っている方がいたら、フィルハーモニクスのチケットを買ってください。何しろウィーン・フィルとベルリン・フィルの両方のメンバーがいますから。それにレストランの食事で前菜とデザートがお好きな方は、ぜひフィルハーモニクスの公演にいらしてください。ウィーンではウィーン・フィルのお客様も私たちのコンサートが本当に好きで、デザートを食べるように愛して下さっています。フィルハーモニクスのレベルが十分なものでなかったら、私たちはすぐにやめようと思っています。こうしたグループもオーケストラと同じように良いものでなければいけません。私たちはクラシックでもポップスでもジャズでも「いい音楽、美しい音楽」の演奏を信条としています。