2025/3/17
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【ロング・インタビュー】シェク・カネー=メイソン (チェリスト)/バーミンガム市交響楽団2025日本公演
今年6月~7月に来日する山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団のソリストとして共演するチェリストのシェク=カネー・メイソン。17歳でBBC主催のヤング・ミュージシャンのコンクールで優勝して一躍注目を集め、以降BBCプロムスの常連となり、2018年にはウィンザー城で行われたサセックス公爵夫妻の結婚式で演奏するなど、特に英国で絶大な知名度と人気を誇ります。今回の来日公演では、彼がチェロという楽器を本当に好きにさせてくれたという「エルガー:チェロ協奏曲」を披露。その曲の魅力や山田和樹との共演の印象など、盛りだくさんの興味深い話を聞きました。
バーミンガム市交響楽団2025年日本公演に向けて
取材・文・写真:中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)
-シェクさんの音楽との出会いについて聞かせてください。
4歳ぐらいの時に、母がピアノを弾いているのを見て、私も弾きたいと思ったのが最初です。母はたくさんのCDを聴かせてくれたり、コンサートに連れて行ってくれたりして、私に最初の音楽のインスピレーションを与えてくれました。6歳でチェロを学び始めると、私はすぐにこの楽器に熱中しました。ノッティンガムで素晴らしい先生に恵まれたのも大きかったです。
-しばしば共演しているピアニストの姉、イサタさんを始め、シェクさんの6人の兄弟姉妹は皆音楽に深く関わっておられます。ご両親も音楽家なのですか?
両親は子どもの頃に楽器を習っていましたが、プロではありません。でも、音楽と芸術への愛を持っています。作家である母は、何かを深く勉強すること、理解することの価値を信じていました。音楽は本当に深く、どこまでも追求できる芸術で、感情的な要素と知的な要素とが組み合わさっています。身体的なスキルも必要ですよね。それらを一緒に経験できることが、私たちが音楽に惹かれた理由だと思います。
-今シーズン、シェクさんはベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のアーティスト・イン・レジデンスとして、ドヴォルザークとショスタコーヴィチの協奏曲、そしてブロッホの《シェロモ》という3つのチェロ協奏曲を共演されます。6月のバーミンガム市交響楽団の来日公演で披露されるのが、エルガーのチェロ協奏曲です。この曲の魅力は何でしょうか?
私がチェロという楽器を本当に好きにさせてくれた特別な曲です。ジャクリーヌ・デュ・プレの最高の名盤があり、私はこの録音からインスピレーションを受けて育ちました。深い感情表現に満ちており、それはとてもパーソナルかつ親密なものです。ソロパートを演奏するには、細部にいたるまで作品を理解する必要があります。おそらく私がこれまで演奏した協奏曲の中で、最も多く演奏した曲だと思います。2019年には、サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団とレコーディングをする機会に恵まれました。
バーミンガム市響とはすでに本拠地やツアーで数多く共演していますが、エルガーの協奏曲は今回が初で、日本公演を今からとても楽しみにしています。というのも、指揮者の山田和樹さんは、魂のこもった、創造的なアプローチの方法を持っていると思うからです。
-山田さんと共演した印象はいかがでしたか?
バーミンガムでショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番を共演しました。素晴らしい音楽性の持ち主で、オーケストラも彼を愛していると思いますよ。実際、音楽監督としての契約を延長したばかりです(注:この1月、バーミンガム市響は山田との契約を2028/29年まで延長した)。両者の共同作業がとてもうまくいっていることの証拠だと思います。
-シェクさんはクラシックのみならず、多彩なジャンルの音楽に造詣が深いことで知られます。中でもレゲエのボブ・マーリーを尊敬しているそうですね。
はい、レゲエは自分にとても近い音楽です。というのも、私の父がカリブ海のアンティグア島出身で、そこで多くの時間を過ごしたからです。人口10万人ほどの小さな島で、カリブ海の音楽は、アフリカの音楽から大きな影響を受けています。そして私の母は、西アフリカのシエラレオネ出身です。
-ご自身の中にたくさんの音楽的ルーツがあるのがわかります。今の世界を見ると、分断の傾向がより一層顕著ですが、音楽家として何か感じていらっしゃることはあるでしょうか?
私たち音楽家は、人びとに何を考え、何をすべきか指示することはできませんが、人びとに考えるよう促すことはできます。音楽家の責任は、可能な限り音楽に忠実であり、そして可能な限りいつでもどこでもそれを共有することだと思います。そして、このことが人びとに良い影響を与えることを願っています。
音楽自体は、ある意味、世界から切り離されていることが多いように見えますが、実際はとても密につながっています。なぜなら、音楽は人間によって書かれ、私が深く見ている物事に関わるものなので。時にはこの世のものとは思えないほど美しく、私たちが到達すべき理想や目標へとインスパイアしてくれます。
Ⓒ Ollie Ali
-シェクさんはまだ25歳ですが、一方で弾いていらっしゃるチェロは1700年製だそうですね。ほぼ300年もの年代差のある楽器について教えていただけますか。
1700年にベネツィアのマッテオ・ゴフリラーが手がけた楽器で、その音はとても深くダークで、味わい豊かです。この楽器の音にはいくつもの層があり、私は作曲家や作品に応じてさまざまな色や特別な音色を見つけることを大事にしています。それを可能にするチェロを持つことを許され、この楽器の歴史の一部になれるというのは、素晴らしいことですね。
-今後のプランについても聞かせてください。
私はレコーディングが好きで、その作品に強いつながりを感じたタイミングで録音したいと思っています。そして、過去の作品を演奏するだけでなく、チェロのための新しい楽曲の委嘱にもとても興味を持っています。いま私たちが演奏し、レパートリーの定番となっている楽曲の多くは、20世紀の偉大なチェリストたちによって委嘱されたものです。例えば、今晩私が演奏するショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番が、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチのために書かれたように。ブリテンのチェロ作品も同様です。もちろん、バッハを始め、チェロのために書かれた作品は広大で、すでに数多くのレパートリーがありますが、その歩みは続けられるべきです。ですから私は、本当に興味のある作曲家を知り、彼らにチェロのために作品を書いてもらうよう努めています。
-ありがとうございます。シェクさんが山田和樹&バーミンガム市響と奏でるエルガーを今から楽しみにしています。
《公演情報》
<RMF&山田和樹 グローバルプロジェクト>
山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団
2025年
6月30日(月) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
7月1日(火) 19:00 サントリーホール
7月2日(水) 19:00 サントリーホール
7月5日(土) 15:00 ロームシアター京都 メインホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2126/
主催:公益財団法人 ロームミュージックファンデーション/ジャパン・アーツ
特別協賛:ローム株式会社
<山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団来日公演 その他の日程>
6月28日(土) 15 :00愛知県芸術劇場コンサートホール
6月29日(日) 14 :00兵庫県立芸術文化センターKOBELCO
7月4日(金) 19 :00アクロス福岡シンフォニーホール
7月6日(日) 14 :00横浜みなとみらいホール