2025/3/13

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【インタビュー Vol.3】ラハフ・シャニ

2025年6月、オランダの名門ロッテルダム・フィルを率いてラハフ・シャニが来日します。2年ぶりの来日となる若き巨匠シャニのインタビューを3回に分けてお届けしています。

[ インタビュー:Vol.1  |  Vol.2Vol.3 ]

ラハフ・シャニ

取材・文:高坂はる香(音楽ライター)

—ピアニストでもある指揮者ならではの特徴はありますか? ピアニストの活動とどのように両立させているのでしょうか?

 若いころはピアニストを目指していて、指揮者という選択肢は頭にありませんでした。でも高校のオーケストラでコントラバスを始めたことで、オーケストラの音楽に恋をしたんです。演奏しながらさまざまな声部を聴くことで、音楽への理解が変わりました。
 オーケストラのコントラバス奏者になることも考えましたが、当時から自分の中に、オーケストラにどう演奏してほしいのか、奏者同士をどうつなげるべきなのか、選ぶべきテンポや音色についてはっきりしたアイデアがあるのを感じていました。それが単なる想像上のことなのか、オーケストラを前にしてできることなのかわからずにいたのですが、実際に試してみようと思ったことが、私を指揮の道に導きました。
 ベルリンで指揮を学ぶようになった5年のうちの2年間、私はピアノを少し疎かにしていました。
 しかしあるときダニエル・バレンボイムに会う機会を得ました。彼が私にピアノで何か演奏してほしいと言うので、半年くらい弾いていない決して良くないコンディションながら、ベートーヴェンのピアノソナタを弾きました。すると演奏を最後まで聴いた彼は、こう言いました。
「君には指揮者として未来があると思うけれど、もし私が君の立場ならピアノはやめないし、もっと本気で取り組むと思う。数年後、ピアノがうまくいかず指揮をしたいと思えば、その道を選べばいい。でもその逆……20代前半の今、指揮に専念して、数年後にピアノも弾きたいと思っても、それは難しい。指揮とピアノはそこが決定的に違うのだよ」
 私は彼が自分のピアノを気に入ってくれたことがまず嬉しかったし、そして他でもない、ピアノと指揮を両立するお手本のような彼の言葉ということもあって、アドバイスをそのまま受け止め、すぐ再びピアノを勉強し始めました。

—ピアニストはよく「オーケストラのこの音をピアノで表現したい」とおっしゃるのでそういう発想から指揮をするようになったのかと思いましたが、少し違ったのですね。

 そうとも言えるし、そうではないとも言えます。確かに私の場合、オーケストラで演奏する経験によって指揮に導かれたわけですが、あなたのその話と矛盾しているわけではありません。
 例えばブラームスのピアノ・ソナタを演奏するなら、手だけでオーケストラのような音楽を奏でようとします。ピアノはニュートラルな楽器なので、豊かなイマジネーションさえあれば他の楽器の音の印象を生み出すことができます。ピアニストは常にオーケストラの複数のプレイヤーの声を想像しながら演奏する習慣を持っていますから、指揮者になることは、他の楽器奏者よりも楽なのです。
 ただ唯一欠けているのは、レパートリーをオーケストラ奏者として内部から知る経験です。私の場合はコントラバスの経験があるので、指揮をするうえではその両方が活かされています。

—さまざまな指揮者のもとで学ぶ中、最も大きな影響を受けたのは?

 まず前述のバレンボイムは、音楽家、そして人間として、多くの影響を与えてくれました。ズービン・メータは、私が初めて出会った世界的な指揮者で、たくさんのインスピレーションをもらいました。
 私は2009年からベルリンに移りましたが、音楽家としてこれは幸運なタイミングでした。ベルリン国立歌劇場ではバレンボイムが、ベルリン・フィルではサイモン・ラトルが、そしてコンツェルトハウスではイヴァン・フィッシャーが指揮していた頃ですから。三人の指揮者はそれぞれ異なり、多くのことを教えてくれました。
 メータは私がベルリンに越したとき「できるだけ多くのリハーサルに行くように」とアドバイスをくれました。私は学校が終わると毎日のように誰かしらのリハーサルを聴きに行きました。指揮者がどうするとどんな結果が生まれるのか、優れたマエストロはどのように目指す音楽を達成していくのかを観察することで、多くのことを学びました。

—偉大な指揮者を見て学ぶことも多い中、作品については自分の解釈を見つけなくてはならないと思います。そのうえ指揮者は自分で音を出さないため、その解釈について奏者から合意が得られなければいけません。どのように実現していくのでしょうか?

 指揮者は自分で音を出すわけではありませんが、オーケストラの音に大きな影響を与えます。偉大な指揮者はその強いパーソナリティにより、何も言わなくても、時にはほんの少し何かを示すことでオーケストラの音を変えることができます。強い考えを持ち、多くのことを感じている指揮者は、オーケストラに自然と自分の考えを投影できるのです。
 私とロッテルダム・フィルの関係についていえば、普通なら時間をかけて語り合うことが必要な場面でも、お互いを深く理解しているので、言葉を超えたコミュニケーションを通じて、あらゆる音を鳴らすことができます。まるで一つの心を持っているといえるほどなんです。
 一方、有名な曲にどうアプローチするかという話ですが、ここで私が一番したくないのは、過去や現在の他の指揮者と自分を比べることです。それは自分の心を乱し、アイデンティティを奪う行為です。
 独自のものを生み出す唯一の方法は、楽譜を読み込むこと。そうすれば、作曲家とダイレクトに接触でき、自分の視点から作品を理解して、ユニークな何かを生み出せるかもしれません。
 もちろん演奏を聴いて学ぶことは大切ですが、そこからアイデアをピックアップしようと考えることはありません。1楽章のテンポはクレンペラー、2楽章のテンポはカラヤンのアイデアがいいな!と思ったところで、うまく行くはずはありませんから。
 一貫した考えのもとで音楽を理解するには、楽譜を正しく何度も読むこと以外に道はないのです。


≪公演情報≫
世界を席巻する若き巨匠シャニ、熱狂を再び!
ラハフ・シャニ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2124/
2025年6月21日(土) 14:00 ザ・シンフォニーホール ♦
2025年6月22日(日) 15:00 愛知県芸術劇場コンサートホール ★
2025年6月23日(月) 19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール ♦
2025年6月25日(水) 19:00 福井県立音楽堂 ハーモニーホール福井 ♦
2025年6月26日(木) 19:00 サントリーホール ♦
2025年6月27日(金) 19:00 サントリーホール ★
2025年6月28日(土) 14:00 横浜みなとみらいホール ★
2025年6月29日(日) 14:00 所沢ミューズ アークホール ♦
[ソリスト:♦ブルース・リウ(ピアノ) ★庄司紗矢香(ヴァイオリン)]


⇒ ラハフ・シャニのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/lahavshani/
⇒ ブルース・リウのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/bruceliu/
⇒ 庄司紗矢香のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/sayakashoji/
⇒ ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/rotterdamphilharmonicorchestra/

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