2025/4/2
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【インタビュー】ブルース・リウ プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を語る
先月プロコフィエフのソナタでその実力をいかんなく発揮したブルース・リウのインタビュー!原始的な感情を受け取るかもという作品の魅力と、ピアニストでもある指揮者シャニとの共演への期待を語っています。ぜひご覧ください。
高坂はる香(音楽ライター)
—今度のロッテルダム・フィルとの共演では、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏されます。作品のどんなところに魅力を感じますか?
音楽の中でたくさんのことが起き、まるでカオスのように聴こえるかもしれないけれど、形式上はとても古典的なところが魅力です。新古典主義的な作品ですから、全体を見ると非常によく編成されているし、オーケストラとピアノのバランスも見事です。
皮肉やダークなユーモアも楽しめると思います。オーケストラとピアノがさまざまな対話をして、ときには口論やちょっとしたバトルを繰り広げるところもあります。
—ブルースさんのようなスポーティな印象のピアニストには、リズミカルでよく似合いそうですね。
確かにとてもスポーティーな作品です。集中力が必要ですし、オーケストラといい意味で“戦う”ための十分な音量を出すために、大きなエネルギーが必要です。ピアノはいわば、オーケストラが生み出す津波のようなうねりの一部にならないといけません。
—10代の頃、ピアノと水泳どちらの道に進むか迷ったほどだそうですが、最近も泳いでいますか? ピアニストにとって肩や背中の筋肉の柔軟性は非常に重要ですから、水泳は良さそうですね。
そう、ピアニストが身体のコンディションをキープするには最適の方法ですよ! 演奏活動のため旅ばかりの生活だから、できるだけプールのあるホテルを選ぶようにしています。
—作品からストーリーなど何か具体的なことを思い浮かべていますか?
いろいろなものがいり混じった感情ですね。苦悩や論争、モダンダンスやバレエのコリオグラフィーを感じる場面もあるし、急に全く違う場所にトリップする瞬間もある。ただそれはどれもとても抽象的です。
具体的にはっきりとしたストーリーは感じませんし、感じたくないという気持ちがあります。自由に解釈できる音楽だと思うので。
聴いていると、どちらかというと原始的な感情を受け取るのではないでしょうか。現代音楽にはある意味、古代の再生のようなところがあって、だからこそ新古典派といわれます。例えば古いアフリカのダンスやエジプトの美術品に回帰するような感覚があると思います。
自分たちの知っている洗練されたロマン派作品の美しさを忘れて、よりコアな部分の感情に戻っていく必要があります。人間の考えることは循環するもので、バロック、古典派、ロマン派と進んで、また古いものに戻っていったといえるでしょう。
—指揮はラハフ・シャニさんです。ピアニストでもある彼は、この曲を自ら弾き振りしていますね。
知っていますよ! おかげでいろいろ共通する感覚のもと話し合うことができます。彼はさらにコントラバス奏者でもあり、ジャズの即興演奏もできるんですよね……本当にすごい。音楽家というよりアーティストと呼ぶほうがふさわしい人です。
そんな優れたマエストロであるにもかかわらず、とても親しみやすいキャラクターで、コンサートホールの外では隣に座って一緒に葉巻でも楽しみながらおしゃべりをできそうなタイプです。友人のように接することもできるリラックスした空気をまとっているので、演奏するうえでも何でも気軽に相談できます。
—さまざまな指揮者と共演されていますが、シャニさんはその中ではブルースさんと年齢的に近いほうですよね。それでやりやすさを感じるところもありますか?
それについてはあまり関係ないかもしれません。大切なのは実際の年齢ではなく、心の年齢だと思います。指揮者に限らず、例えば70歳でもとても若く感じられる方もいますよね。きっと、人生に対する好奇心が影響していると思います。
好奇心を持っている限り、人として成長し続け、年老いたと感じることはないはずです。それを失った瞬間、人は老いてしまうのではないでしょうか。
—ロッテルダム・フィルとは2年前に台湾で共演されていますが、印象はいかがですか?
一度しか共演していないので多くを語るのに十分な経験はありませんが、彼らはとても強力なオーケストラだという印象がありました。自分たちのやっていることをよく理解していて、同時に僕を受け入れてくれる雰囲気もありました。彼らのエネルギーの強さは、とても気に入っています。
—ご自分の音楽を磨き上げていくうえで意識していること、大切にしていきたいことはありますか?
作曲家の意図を考え続けることがまずは大切ですが、そのうえであらゆることを試し続けていきたいです。
同じレパートリーに取り組んでも、まだ試していない何かが必ずあります。それを試みることによって良くなくなってしまう可能性もゼロではないけれど、まずは試していきたいと思うのです。必ず向上するといえなくても、別の新しいものを見つけようとすることにこそ、意味があると思います。
僕の今の音楽の見方は、5年前とはまったく違うと感じます。もしかしたら周りの人たちは5年前の僕の音楽のほうが好きだというかもしれませんが、あまり気にしていません。なぜなら僕自身は変わりたいと思っているから。新しい発見は、音楽家としての長い旅の一部なのです。
≪公演情報≫
世界を席巻する若き巨匠シャニ、熱狂を再び!
ラハフ・シャニ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2124/
2025年6月21日(土) 14:00 ザ・シンフォニーホール ♦
2025年6月22日(日) 15:00 愛知県芸術劇場コンサートホール ★
2025年6月23日(月) 19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール ♦
2025年6月25日(水) 19:00 福井県立音楽堂 ハーモニーホール福井 ♦
2025年6月26日(木) 19:00 サントリーホール ♦
2025年6月27日(金) 19:00 サントリーホール ★
2025年6月28日(土) 14:00 横浜みなとみらいホール ★
2025年6月29日(日) 14:00 所沢ミューズ アークホール ♦
[ソリスト:♦ブルース・リウ(ピアノ) ★庄司紗矢香(ヴァイオリン)]
⇒ ラハフ・シャニのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/lahavshani/
⇒ ブルース・リウのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/bruceliu/
⇒ 庄司紗矢香のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/sayakashoji/
⇒ ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/rotterdamphilharmonicorchestra/