2025/4/4

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【インタビュー】小林沙羅 ”愛を歌う“ 

ソプラノの小林沙羅が、5月14日(水)に東京文化会館小ホールでリサイタル『愛を歌う~』を開催します。オペラ研究家の岸純信氏が、プログラミングに込められた想いを訊きました。

小林沙羅

「シューマンが本当に好きなんです!」

人気のソプラノ、小林沙羅の発言は、常に率直かつ明快である。心の中に、まずは好きなものを好きとはっきり言いたい「勁さ」があり、それから、思いを伝えるための「柔らかい姿勢」も有している。だから、この二つが重なりあうと、薄桃色の真珠のような光が声音に宿り、聴き手の気持ちに自然な共感を引き起こすのだろう。

「5月14日に東京文化会館小ホールで“愛を歌う”と題したコンサートを開きます。このホールで歌うのは久しぶりですが、デビュー直後に千住明さんと松本隆さんのオペラ《隅田川》で狂女役を演らせて頂いたことが、自分の中では大きな出来事になっています。松本隆さんの訳でシューベルトの『冬の旅』を全曲歌った事も忘れられません。音響も素晴らしいですし、大好きなホールで今回歌わせて頂けることが本当に幸せです!」

なるほど。では、リサイタルの内容について語ってもらおう。

「はい。前半ではロベルト・シューマンとクララ・シューマンの歌曲を、対話風に配置して歌います。後半は三枝成彰先生の《愛の手紙~恋文》から2曲を取り上げますが、この前後半とも、俳優の北村有起哉さんに語りをお願いする予定です。前半は今から台本を書きますが、基本的にはロベルト・シューマンとクララ・シューマンの手紙のやりとりを朗読して頂き、私はそれぞれの歌曲を歌う、後半はそれぞれの人物についてのナレーションを北村さんに読んで頂き、私は手紙の文面を歌う、というスタイルです。ピアニストの福間洸太朗さんが伴奏されます」

小林沙羅

とても凝った構成のようだが、そのアイデアの発端は?

「昔からシューマンのリートがとにかく好きなのですが、今回は妻のクララの活躍ぶりにも感動したんですね。いろんな資料を読みましたが、あの時代にクララはピアニストとして大活躍しつつ、大黒柱として夫やたくさんの子供たちを支えていたわけで、信じられないほどのスーパー・ウーマンぶりです。そしてまた困難を乗り越えての結婚やその後の二人の人生を知れば知るほど、クララがいなかったらロベルト・シューマンの素晴らしい歌曲の数々は生まれなかったという思いを強くしました。今回は二人の愛と手紙をテーマに自分でシナリオを書き、曲も選びました。後半については、新作ものを入れたいと思って三枝先生にご相談しましたところ、『男声合唱組曲を独唱版でやってみるのはどうか』とご提案頂き、2曲を選ばせて頂きました。その一つが〈伊藤野枝と大杉栄の往復書簡〉、もう一つが〈マリー・アントワネットとフェルセン伯爵の往復書簡〉なんです」

えっ?マリー・アントワネットはまだしも、伊藤野枝の名前が出るとはなかなかの驚き。

「伊藤野枝さんの事にそこまで詳しかったわけではないのですが、実は、私の祖母がその時代には珍しい『働く女性』でして、『働く母の会』に入って活動するなど、女性解放運動の現場にも居た人なんですよ。祖母は執筆業や放送作家などをしていて、私の小さい頃は家に、例えば、児童文学者の石井桃子さんや作家の矢川澄子さんのような方も来られていまして、自立した女性、自由に生きる女性、というものへの憧れがありました」。

なるほど、幼少期からそうした影響が重なっていたことはその通りなのだろう。

「野枝さんはいろんな殻を破って自由に生きた人。手紙の中では恋する女性として無茶苦茶なことは言っていないですが、端々に、嫉妬心や不貞腐れた思いが滲んでいます。大杉さんの側は会いたいとストレートに言うのに、伊藤さんの言葉には『本当に素直じゃないな、この人』と思わされます(笑)。でも、そこが可愛いくもありますね。女性なら皆、そういう心の動きは持っているのではないでしょうか?私にも勿論、そういうところはありますよ(笑)」

確かに、一見矛盾しているようでも、女性の胸の内としてはごく自然なことのかもしれない。では、マリー・アントワネットは?

「もはや直接会って伝えることが出来ないからこそ、フェルセン伯爵への彼女の真摯な思いが、手紙の形で後世に遺ったわけですよね。亡くなって2年後に手紙が届いたというのも凄いことでしょう?文面は赤裸々ですが、忖度も遠慮もなく、死ぬ前に本物の気持ちを届けたかったことが分かります。そこに感動しました」。

小林沙羅

 なるほど。人の心が繋がるさまを鮮明に浮かび上がらせるもの、それが手紙なのだろう。では、小林自身と周囲との繋がり方についても語って貰いたい。

「昔から、自分の考えをはっきり言ってしまうタイプでして、SNSの場でもそうでした。だから、何か発言すれば思いがけない反響が出ることも味わいましたが、東北大震災の後など、坂本龍一さんからFACEBOOKに直接連絡を頂いて、嬉しく、励まされたりもしました。ただ私自身は演奏家ですから、最近は、自分の想いはできるだけ演奏の現場に盛り込むことが重要だと思うようにもなりました・・・また、今は大学でも教えていますので、学生たちと話すと『まだ若いんだから自分に限界を設けないで!』と強く感じたりもして、その通りはっきり伝えることもあります。朗読の北村さんは、子供の頃から日本舞踊の先生のお稽古場でご一緒してきた方。ピアノの福間さんは、同じ高校の一年先輩です。北村さんは演技はもちろん、声楽家からみてもとても素敵な声をされている所が魅力的です。また福間さんが高校時代に音楽祭でピアノを弾かれたときに場内が一瞬で静まり返ったことも忘れられません。いろんなご縁を頂いて今に至っています。今回のリサイタルでも客席の皆さまと新しくご縁が結べればと思っています。ご来場をお待ちしています!」

執筆:岸純信(オペラ研究家)

小林沙羅


《公演情報》
歌と朗読でつづる愛の手紙
小林沙羅 ソプラノ・リサイタル “愛を歌う”
日時:2025年5月14日(水) 19:00
会場:東京文化会館 小ホール
出演:小林沙羅(ソプラノ)、福間洸太朗(ピアノ)、北村有起哉(朗読)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2136/


◆小林沙羅のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/sarakobayashi/
◆福間洸太朗のアーティストページはこちらから
hhttps://www.japanarts.co.jp/artist/kotarofukuma/

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