2025/4/16

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インタビュー:樫本大進に訊く

2024年12月のラファウ・ブレハッチとの名演奏が記憶に新しい樫本大進は、本年6月に8年ぶりに盟友アレッシオ・バックスとのデュオ・リサイタルを行います。
日本公演に先駆けて、千葉望氏がインタビューを行いました。

――ベルリンフィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任してから、早15年。今では一番のベテランになられました。
知らない間に一番年上になってしまいました。先日一人コンサートマスターが退任したため、今はノア(同じコンサートマスターのノア・ベンディックス=バルグリー)と二人体制になっています。
ペトレンコとの共演を重ねてきましたが、本当にあそこまで音楽だけを考えて、それだけのために生きている人間を僕は見たことがありません。一つの本番が終わった時でも「よし、よくやった」と満足して終わらない人なんですよ。最後の音が終わった瞬間にも次にどうすればもっと自分の理想に近づくか考えている。本当に尊敬できる指揮者です。

――コンサートマスターとなられてからの成長について、ご自分で感じるところはどういう点ですか。
15年間ただすぎたわけじゃない、ベルリンフィルで担ってきたということが大きなことだと感じています。僕がベルリンフィルのメンバーをよく知るようになり、彼らの音楽の作り方に慣れてきたし彼らの方も僕に慣れてきたので、その分ステージにおける仕事量は減ってきたと思います。

――曲をよく知るという意味ではものすごく良いお立場ですよね。先日、パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で共演されましたが、演奏しながらオケの各パートの音をよく聴いていらっしゃることがよくわかりました。
そういう意味では本当にラッキーだと思います。ソリストとして演奏している時でもオーケストラの中で何が起こっているかをちゃんとわかりますから。コンサートマスターはオケ全体のことがわからなくては駄目な仕事ですが、ソロで弾く時はあまり気にしすぎない方がいいかと思うので、ある程度オケのことを頭の中から消さないといけません。でも、どの楽器がいつどんな演奏をしているかわかっているだけで弾き方も違ってきていると思います。

――今年6月にはアレッシオ・バックスさんとのデュオ・リサイタルのために帰国されますね。久しぶりにお二人の共演が聴けるのが楽しみです。
アレッシオとは定期的に一緒にリサイタルを行っているので、本当に気心の知れた間柄です。ただ日本では結構久しぶりですね。モーツァルト、グリーグ、ベートーヴェンといろいろ揃った楽しいプログラムですが、アレッシオの希望を入れたらこういう形になりました。
グリーグのヴァイオリンソナタ第3番(ハ短調作品35)はデビューした頃から何度も演奏していて、自分の心に近い大切な作品です。今回のために特別に選曲したというよりは、自分に合っていると思うので定期的に弾きたいですね。アレッシオともこの曲は何度も演奏してきましたが、お互い人生経験を重ね、成長した今だからこそ表現できる音楽があると思っています。

――大進さんのリサイタルは毎回ピアニストが素晴らしいので、それを聴く楽しみもあるんです。昨年12月にはラファウ・ブレハッチさんと共演して話題になりました。
僕も楽しいですよ。アレッシオやエリック・ル・サージュとは頻繁に共演しているので慣れているけれど、とても尊敬するピアニストなので、ずっと一緒に弾きたいっていう気持ちが強くて。ステージでいい刺激を受けたいし、互いに自分の音楽をぶつけ合って、より高いところにチャレンジしていく喜びがあります。今回もアレッシオとどんなやりとりができるのか期待しています。


2024年12月19日 サントリーホール 撮影:ヒダキトモコ

――ベートーヴェンの《クロイツェル》という王道のプログラムが入っています。
同じ《クロイツェル》でもいろんな人と演奏すればその時々で違ってきます。アレッシオと一緒に演奏することでまた新しいものが生まれるでしょうね。それを聴いていただけることも楽しみなのです。

――大進さんは日本・アメリカ・ドイツでヴァイオリンを学ばれました。ロシア人のザハール・ブロン先生、ドイツ人のライナー・クスマウル先生とタイプの違う指導者にもついています。いろいろな音楽を演奏する豊かな土壌をお持ちですね。
本当にいろいろな素晴らしい先生に教えていただきました。アメリカではジュリアード音楽院に行って、次にドイツのリューベックでブロン先生に教わって、その後クスマウル先生にも教わって。その前に日本の先生にも教わっています。そこまでいろいろなことを味わえる人間もそんなにいないと思うので、すごくラッキーでした。ヴァイオリンの弾き方のスタイルもいろいろ、音楽の作り方も生き方もいろいろ。多彩な文化を見てきたことが全部、僕の音楽にとってプラスになっていると思うんです。

――今回のプログラムにはモーツァルトが入っています。
そもそもクスマウル先生につこうと決めた主な理由はモーツァルトですね。モーツァルトは天国から来ているような音楽ですから、むずかしいですよ。でも、具体的な弾き方を教えてもらいたいというよりは、先生の近くにいたいっていう気持ちでした。たくさんお話ししたり、演奏やお食事をご一緒したりしながら先生の人格に触れることで、人間としても多くを学んだのです。

――今回のリサイタルで、その実りを感じることを楽しみにしています。

インタビュー&文:千葉望


【公演情報】
樫本大進<プレミアム室内楽シリーズ>vol.4
樫本大進&アレッシオ・バックス デュオ・リサイタル 2025

2025/6/7(土)19:00 サントリーホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2131/

【全国公演日程】
2025/6/4(水) レクザムホール(香川県県民ホール) (問)087-823-5023
2025/6/6(金) 八ヶ岳高原音楽堂 (問)0267-98-2131
2025/6/7(土) サントリーホール (問)0570-00-1212
2025/6/9(月) アクトシティ浜松 中ホール (問)053-451-1114
2025/6/10(火) 住友生命いずみホール (問)06-6944-1188

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