2014/4/23
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【最終】座談会 Vol.3 プレトニョフの音楽とその魅力
プレトニョフの音楽の魅力を3名の専門家の皆様に語っていただく「座談会 Vol.2」です。
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・青澤 隆明・・・(以下A)
・寺西 基之・・・(以下T)
・伊熊 よし子・・・(以下I)
プレトニョフが出てきたソ連という、政治的な力がないと生き残れない時代においてこれほど純粋に音楽家であり続けて世界の頂点まで辿り着いた人は一握りかもしれません。また彼の根底に人間的な温かみを感じます。
T: 彼はソ連の音楽教育の中で育ってきました。ほとんどの音楽家はその枠組みの中で成長しているわけですが、彼はそれを土台としながらも自分の感性に従いながら正直な表現をしてきました。それが個性的なものを生み出しているのだと思います。一見反体制的な感じを受けるのですが、それは自分の信じるところを人間として一途に追求してきた結果なのではないかと考えます。RNOを創設した際も、当時オーケストラは国営であることが当然であったわけですが、民間のオーケストラとして立ち上げました。普通、当時のロシアでは出てこないアイディアだったと思います。そういった点からも自分の信じるところを純粋に追求してきていることがうかがえます。
I: 彼はインタビューの際などあまり笑わないのですが、オーケストラを創るときに奏者のオーディションに2、30倍の応募があったという話をし、そこまで自分の考えに賛同してくれたのだと笑顔を初めて見せてくれました。それでこの人はそういう時に笑うんだと思いました。自分の目指しているものはすごく沢山ある。純粋に追求してもさまざまな障害が出てくると思います。ただRNO創設の際には民間で国の予算無しに沢山のスポンサーを集め、私財を投じて始めたわけです。それで色々な人から認められて初めて笑顔を見せたのです。
彼はシャイな人だと思います。シャイだから本心を見せまいとして革新性などで武装した表現してくる人なのではないでしょうか?実は優しくて、ロマンティストで恥ずかしがりやなんだと思います。本当は表にあまり出たくないと自分では考えているのかもしれません。ただ舞台人である以上、自分が表に出ないと表現出来ないので指揮やピアノを弾いているのだと思います。
芸術的な創造力への絶対的な信頼と内心の率直な柔らかさ
A: 彼の根底にあるものは「芸術的な創造力への絶対的な信頼」でしょう。それを通じて、ヒューマニティの回復や人間性への揺るぎない確信が現代において失われていくことへ強靭に抵抗し、それを貫こうとしている。ただしプレトニョフも、もうすぐ60歳です。さまざまな人間としての経験、音楽的な体験がどのようにプレトニョフに影響してくるかが楽しみです。そして私が期待しているのは意表をつくような創意ももちろんですが、革新性の鎧をかぶることなく、人間的な内心がより率直に柔らかく温かく表出されるようになったときに彼がどのような音楽を奏でていくのかということです。闘いは続くのですが、彼のもつ温かで繊細でユーモア好きなところが音楽に素直に出てくるようになるのではないかと期待しています。チャイコフスキーの小品の演奏などからはすでに十分に感じ取れますが、それがこれからどのように色濃く出てくるか非常に楽しみです。
I: 楽譜の読みも違うと思います。普通の人であればどんな演奏になるか想像が出来るのですが、プレトニョフの場合には楽譜の読みが違うから想像出来ない。プレトニョフを初めて聴く人はどういう音楽をする人なのか分からなくてドキドキするでしょう。でも、それはコンサートに行く一つの楽しみだと思います。予想がつく音楽ではないので、見ること、聴くこと、人間性を想像すること、さまざまなことを総動員することになります。それが初めてプレトニョフのコンサートに行く人の楽しみになると思います。安定を求めてはいけません。安心出来る音楽家ではないですから。
ある時を境にプレトニョフは変わりました。それまでは自分のためだけに弾いているようなところがあったのですが、突然人間的な演奏になったのです。しばらくぶりのピアニストとしての活動ですので、また何か大きな変化があるかもしれません。
A: 何でもできる技術、精神力を兼ね備えた人ですので、そのときそのときでどの面が現れてくるのか、楽しみです。話は戻りますが、2004年のライヴ録音でしたか、チャイコフスキーの「18の作品」は親密で内面的な演奏でとても素晴らしかった。自分の居間の音楽のようなところがありました。
T: すごく“インティメート”(打ち解けた雰囲気)でしたね。
I: 私にとってはハイドンのソナタとショパンのソナタの2番が入ったアルバムが素晴らしくて印象に残っています。今回ショパンは弾きませんが、彼のルバート(音の揺れ)は独特です。個性的なのですが、自然です。ルバートっていうのはショパンに限りませんので、シューベルトを聴くときなどは、その辺に注意を払って聴いていただきたいです。
T: シューベルトでは音の陰影をどういう風に出してくるのか、調性の揺れ、和声の鳴り方など、彼は少し強いコントラストで出してくるのではないかと思います。
A: 尖鋭的で独創的な表現と、そうした内密で温かな面が、どちらかに傾斜することなく、いずれ美しく結びついていくことを期待しています。今回のシューベルトやシューマンの作品演奏でも、ロマンティシズム、純粋さ、革新的な意匠が結びつくことを楽しみにしています。
プレトニョフの演奏はどんな作品を弾いても一瞬も退屈な瞬間がないですね。
バッハでの新たな驚きに期待
I: その通りです。私は今回のリサイタルの「イギリス組曲」を楽しみにしています。プレトニョフなら新たな驚きを与えてくれるような演奏をしてくれるのではないかと思います。プレトニョフのバッハは期待できますよね?バッハの作品は左手と右手の対話です。右手ばかりに偏る人が多いのですが、プレトニョフの場合、左手が特別に素晴らしいのです。だから何番を弾くのか早く決めてほしいです(笑)
T: 彼の場合は何番でも素晴らしいと思いますよ。
I: ピアノを習っている人には、どうしたらこういう風な音色を左手で出せるのかというところを見てみてほしいです。みな左手で苦労していますので・・
プレトニョフは全世界に本当に熱狂的なファンがいます。何がそれほど魅力的なんでしょうか?
A: 簡単に言うと、他が聴けなくなるのではないでしょうか? プレトニョフの世界に深く没入すると、他のピアニストでは刺激や色彩の面で物足りなく感じたり。技術的な水準に関しても高いうえに、プレトニョフの演奏は毎回が創造的ですから。
I: 私は「新鮮さ」だと思います。新たな思いを毎回抱くことができます。聴きなれた作品でもまったく違う作品に聴こえる点だと思います。
A: 「壮大さ」も魅力だと思います。演奏のスケールが違うように感じるのだと思います。
T: プレトニョフは新しい発見を聴く人に与えてくれる。今までの作品のイメージを壊すのではなく、まったく別のものを提示してくれる。その面白さが強く人を惹きつけるのだと思います。
I: この人は大衆に迎合しない人です。そこに追っかけのような人たちは惹かれているのかもしれません
A: 熱狂的なファンにとっては、決して安心出来ないという“安心感”、その高い信頼性がたまらない魅力なのではないでしょうか(笑)
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ついに復活!ロシア・ピアニズムの巨匠
ミハイル・プレトニョフ リサイタル&コンチェルト
<<協奏曲の夕べ>>
2014年05月27日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<<リサイタル>>
2014年05月29日(木) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール