壮大なスケール、豪華絢爛なソリストを迎え、巨匠ゲルギエフとマリインスキー劇場が贈る【チャイコフスキー・フェスティヴァル】である。しかしそれと同時に、名実ともに世界を舞台に活躍するゲルギエフが、一人の人間として世に問いかける内省的なプロジェクトだとも言えるであろう。“音楽”がさまざまな媒体を通じて世界に発信され共有される時代、それを積極的に利用しているマエストロだからこそ、今、ダイレクトに“生”で届けたいものを求め続けており、それが今秋の【チャイコフスキー・フェスティヴァル】に結実しているのだ。
20代で書いた交響曲第1番から、亡くなる年に書き上げた第6番まで、作曲家がもがき苦しむ中、綴った交響曲全曲。それらを軸に、ドラマティックに奏でられるピアノ協奏曲は、代表作の第1番だけではなく隠れた名曲の第2番、3番まで。哀愁に満ちたヴァイオリン協奏曲と、気品高い『ロココの主題による変奏曲』も、このフェスティヴァルにふさわしい、ゲルギエフがチャイコフスキーの魂を協奏できるソリストを迎え、プログラミングされている。
そして極めつけは『スペードの女王』のオペラ上演と、『マゼッパ』(コンサート形式)である。
「子どもの頃はプーシキンの詩を口ずさみ、学生時代はそれを歌いながらサンクトペテルブルグの街をさまよったものです」と話していたゲルギエフ。
“音楽人”として生き抜いたチャイコフスキーの音楽を多面的に重層的に演奏する中で、生きることの苦悩と喜び、そこから沸きあがる心の叫びと歌、人生の厚みと深さとを、ゲルギエフとアーティスト、そして私たちと共に分かち合うーそんなフェスティヴァルになることだろう。