2017/8/9
ニュース
岡本 侑也のエリザベート王妃国際音楽コンクール入賞についてのインタビュー
毎年5月、ベルギーの首都ブリュッセルは熱気と興奮に包まれる。ベルギーの全国民を夢中にさせるエリザベート王妃国際音楽コンクールが催されるのだ。世界3大音楽コンクールの一つに数えられ、伝統を誇る本コンクールで、2017年は、初めてチェロが取り上げられた特別な年。世界中から注目が集まる中、堂々の第2位に輝き、快挙を成し遂げたのが、弱冠22歳の岡本 侑也(おかもと ゆうや)。
ベルギー国内ではコンクールの模様が、連日、生中継でテレビ放映され、王妃を始めとした王室ご一家も度々、訪問された。まさに国を挙げての華やかな祝祭。コンクールの歴史にその名を刻んだ彼だが、入賞後の心境を尋ねると「特に背伸びしたわけでもないので、自分自身は何も変化していません」と自然体の飾らない笑顔で語った。今回、その魅力に迫るべく、コンクールの舞台裏から今後のビジョンまでを訊いた。
二位受賞、本当におめでとうございます。入賞が決定した瞬間の気持ちはいかがでしたか。
今までお世話になってきた先生方や関係者の皆さん、友達が喜んでくれたことが、何よりも嬉しかったです。「こんなにも沢山の方が応援して下さっていたんだ」と、改めて気づき胸を打たれました。鳥肌の立つ瞬間でしたね。
第一次予選、セミファイナル、ファイナルと順調に進まれましたが、その時々の心境はどうだったのでしょうか。
第一次予選の段階ではコンクールの雰囲気が掴めておらず、正直、緊張していましたが、段々と雰囲気も分かってきました。演奏を心から楽しむことができました。ファイナルでは、「出来ることは全てやり尽くした」という達成感がありましたね。
また、ピアノ伴奏者にも恵まれました。演奏の相性というものには、人間の相性が自ずと表れてきます。今回務めてくれたトーマス・ホッペさんは、演奏が素晴らしかっただけでなく、ステージの外でも気さくで、心の通ったやり取りをすることが出来ました。
エリザベートコンクールの雰囲気というのはどういったものなのでしょうか。
聴衆がとても温かい雰囲気で見守ってくれ、コンクールという感じがしませんね。コンクールというと、どうしても審査員もお客さんも、演奏を批判的に聴きがちになると思います。でも、このコンクールでは、皆さんが純粋に音楽を楽しみに来ているということが、ステージの上からでも感じ取れるんです。だから、演奏している僕も楽しかったし、有難くも感じました。
現代曲には、想像力を働かせ自分なりの解釈を音に込められるという面白さがあり、僕自身も好んで演奏します。細川先生の曲は、本当に素晴らしい作品です。楽譜が渡され、ファイナルを迎えるまでの間に、ファイナリストたちには細川先生からアドバイスを受ける機会がありました。「琴の音色を真似る」、「習字の払いの筆さばきが欲しい」といった指示もあったんですよ。
今、改めて振り返ってみて、入賞できた理由は何だと思いますか。
複数の審査員の方から、僕の演奏は、奇をてらった派手な解釈ではなく、自然な解釈で無理がなかったという講評を頂きました。賞を取りにいくとなると、どうしたって力が入りますから、目の前の観客と一緒に楽しむということに集中したことが良かったのかもしれません。
ブリュッセルで得た幸運な出逢い
このコンクールでは、期間中、ホストファミリーのところに滞在するというのも特徴的ですよね。
ええ。僕がお世話になったのは、男爵の爵位をもつ御一家で、子ども四人、犬二匹、鶏三羽と一緒の賑やかな生活でした。ブリュッセル市内にあるお屋敷は、広大な庭のある大豪邸!毎週水曜日は、お祖父さん、お祖母さんを交えてのランチ、土曜の夜はホームシアターといった具合に、家族の一員として温かく迎えてくださいました。愛に溢れた素敵な家族で、色々な面でサポートして頂きました。
ホストファミリーとの時間も心に残るものだったのですね。
ホストファミリーの奥様がスピリチュアルな方で、初めてお会いしたときから特別な雰囲気を感じていました。セミファイナルのくじ引きに際して、「(みんなが応援に行ける)水曜日になるように祈っておくから」と言われて、本当に水曜日を引き当てたり…。ホストファミリーの方々と過ごして以来、驚くほど、良い出来事や巡り合わせが続いています(笑)。
この秋からドイツの大学院に進学して、長年憧れてきた先生の下で学べることになったんです!実は、コンクール前から師事したいという希望は伝えていたのですが、コンクールが終わって正式に受け入れてもらえることになりました。コンクールの結果より嬉しかったかもしれません(笑)。
それは、とても楽しみですね。これから挑戦してみたい曲はありますか。
大学院の2年間では、今までやったことのない曲をものにしていきたいです。例えば、ディティーユとかルトワフスキ、グルダのコンチェルト、またラフマニノフのソナタにも興味があります。
最後に、今後、チェリストとして目指していきたいことを教えてください。
人間には、誰かと気持ちを共有したいという根源的な気持ちがあると思います。ですから、人と人を結びたい。演奏を通じて、作曲家のメッセージを1人でも多くの人と分かち合いたいですね。今後、改めて新鮮な気持ちで、自分の演奏を深め磨いていきたいですね。
取材・文:大野 はな恵(音楽学)
◆岡本 侑也のプロフィールなどアーティストの詳細
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/YuyaOKAMOTO