2018/7/13

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注目!!サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団『イワン雷帝』

11月に来日するユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団。
今回は、マエストロ ユーリ・テミルカーノフ、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、そして11月13日サントリーホールで行う「イワン雷帝」の魅力についてお伝えします!!

1938年生まれのユーリー・テミルカーノフ氏は今年80歳を迎える。誕生日の12月4日を前にした今回の日本公演でひときわ目を引くのがプロコフィエフの『イワン雷帝』だ。ロシアでも演奏される回数の少ない作品でありテミルカーノフ指揮 サンクト・ペテルブルグ・フィルの組み合わせが日本で聞けるのは今回が初めてだろう。11月13日の日本公演に先立ち、当地サンクトペテルブルグでも10月28日に同曲の演奏会が予定されている。マエストロ・テミルカーノフの日本公演に向けた意気込みと用心の程がうかがえる。テミルカーノフ氏が公式に初めてこの曲を指揮した記録は1969年5月17日、フランスにおけるロシア・ソヴィエト祭の開会演奏会である。1966年の第二回全ソヴィエト指揮者コンクールの優勝後、審査員長だったコンドラシンに重用され海外ツアーへ同行するようになるのだが、このフランスへの演奏旅行もその一環だろう。この時の記録には、オーケストラはコンドラシンのモスクワ・フィルハーモニーで第二指揮者として登壇したとある。この日のソリストとしてエレーナ・オブラスツォワが共演。ちなみにオブラスツォワとはペテルブルク音楽院の同窓で旧知の間柄である。これに続いてサンクトペテルブルグ(当時はレニングラード)で演奏したのは同年12月15日。オーケストラは当時テミルカーノフ氏が首席指揮者を務めていた現在のサンクトペテルブルグ交響楽団、つまり第二オーケストラである。サンクトペテルブルグ・フィルハーモニーとの演奏の記録はウィーンで1995年11月13日。サンクトペテルブルグ当地での演奏はさらに下って2006年の9月22日とあるので、それほど前のことではないのが意外だ。<当時のプログラム>
38年生まれのテミルカーノフ氏だが、意外にもプロコフィエフと個人的な交流があった旨が拙訳『ユーリー・テミルカーノフ モノローグ』でも語られている。1941年8月地方へ疎開する芸術家一行の中にプロコフィエフが同道しており、途中の逗留地であったカバルディノ・バルカル共和国のナリチクで当時共和国の文化大臣であったテミルカーノフ氏の父親が一行を歓待した。この父親の尽力により、プロコフィエフはのちに弦楽四重奏曲第2番を作曲することになる。交流の中で、自宅に招待されたプロコフィエフは、当時まだ3歳だったテミルカーノフ氏自身と手をつないで公園を散歩したという。のちにキーロフ劇場(現在のマリインスキー)監督としてオペラ『戦争と平和』を、作曲家本人が舞台として意図したこの劇場のレパートリーに復活させたのもテミルカーノフ氏である。エイゼンシュテインの映画作品によるもう一つのオラトリオ『アレクサンドル・ネフスキー』を演奏したテミルカーノフ指揮サンクト・ペテルブルグ・フィルのディスクは長年親しまれているので、耳にされた方も多いだろう。さてこの『イワン雷帝』はエイゼンシュテインによる映画作品を編曲したオラトリオである。映画作品自体第一部の絶賛とスターリン賞の受賞、第二部への批判、第三部の未完・封印と全面的にソヴィエト政権に翻弄された経緯をもつ作品である。更に、のちに明らかになったエイゼンシュテインの創作ノートには、イワン雷帝がスターリンによる銃殺者への懺悔の言葉を述べる場面が書かれていたとあれば、ソヴィエト時代のロシア芸術の悲劇性を語る絶好の材料となるだろう。一般の聴衆にとっては、こうした経緯をもつ作品の音楽を、歴史的な類推をもって聞きたくなるのは致し方ないことである。

だがテミルカーノフ氏は、音楽作品はあくまでもその歴史的文脈と切り離して聞かれるべき純音楽的なものであると述べる。テミルカーノフ氏の頑固ともいえるストイックさは、拙訳『モノローグ』でも感銘を受ける点であるが、リハーサルの回数は毎回4回から5回を欠かさない。そして一つの曲に取り組むたびに、それ以前とは明確に異なるアプローチをとる。これはシーズンをまたいで同じ曲の演奏を聞いたことがある方ならすでにお気づきのことだろう。サンクト・ペテルブルグ公演を経て十分に練りこまれた日本公演の演奏が、どのようなものになるのか今から興味が尽きない。

文:小川勝也

マエストロ テミルカーノフ氏は、プロコフィエフを特別な存在であり天才だとも讃えておりますが、自伝書「ユーリー・テミルカーノフ モノローグ」の中でも次のように触れています。

私はセルゲイ・セルゲイヴィチ[プロコフィエフ]にたいして子供時代から心に触れるものがあったのです。(P.235)

プロコフィエフは音楽を組み立てなどしませんでした。彼は魂で書いたのです。
であるこそプロコフィエフの語法は私たちにとって今でも完全に自然です。それに自然であるだけでなく、私たちはまだ彼のレベルにまで成長できていません。
彼がどれほど驚異的な作品を映画音楽のために書いたことでしょう。(P.236)

◆自伝書「ユーリー・テミルカーノフ モノローグ」◆訳者 小川勝也(おがわかつなり)氏
1975 年福岡生まれ。メキシコ、アメリカ、ウクライナでの滞在を経て、2014 年よりロシア・サンクトペテルブルグ在住。 日本語教師、翻訳、観光案内などに従事する傍ら、能楽や禅についての講義を開催し日本文化の紹介にもつとめている。
【新刊情報】ユーリー・テミルカーノフ モノローグ (2018年2月5日発売)

◆「イワン雷帝」映画公開 NEWS ◆
監督エイゼンシュテインとプロコフィエフによる映画「イワン雷帝」がロシア・ソビエト映画祭で上映されます!7月15日(日)13:00開演/7月31日(火)15:00開演の二公演。この映画を観れば、オラトリオ「イワン雷帝」への興味が深まるにちがいありません!
映画祭詳細はこちらからご覧いただけます。

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テミルカーノフ80歳記念公演 ロシア最高峰の巨匠とオーケストラで聴く 薫り高き響き
ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
2018年11月12日(月) 19:00開演 サントリーホール
2018年11月13日(火) 19:00開演 サントリーホール
公演詳細はこちらから

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