<舞台の紹介>
《アンナ・カレーニナ》はトルストイの同名の長編小説に基づき、ロディオン・シチェドリン(作曲)、マイヤ・プリセツカヤ(演出・主演)夫妻が創作したバレエで、1972年にボリショイ劇場で初演された。
原作では高級官僚カレーニンの美貌の妻アンナが、青年将校ヴロンスキーと恋に落ち、ついには鉄道に飛込み自殺するまでのドラマが、当時のロシアの世相や作者自身の社会思想をまじえて綿々と描かれる。トルストイは都会や社交界におけるアンナとヴロンスキーの禁断の愛と農村におけるリョーヴィンとキティ夫妻の家族愛の世界を対置させ、むしろ後者に自らの倫理観を見出したが、プリセツカヤはアンナの自由な愛と世間との孤独な戦いを強調した。シチェドリンは弦と金管を中心にした鋭角的で不協和な響きの中にチャイコフスキーの憂いに満ちたメロディを引用して、トルストイの文学世界を巧みに表現した。
今回マリインスキー・バレエが上演するのは、近年、ショスタコーヴィチの《明るい小川》(2003)やシチェドリンの《イワンと仔馬》(2010)、デシャトコフの《幻滅》(2011)など現代音楽によるバレエに積極的に取り組んでいるアレクセイ・ラトマンスキーが演出したヴァージョンで、2004年、デンマーク・ロイヤル・バレエによって初演された(マリインスキー初演は2010年)。
ラトマンスキーはバレエを全2幕構成とし、前半はアンナがヴロンスキーと恋に落ちるまで、後半は夫により愛する息子と引き裂かれ、社交界からも拒絶されたアンナがヴロンスキーとの些細な諍いによって行き場を失い自殺するまでを、現代的な振付と自然なマイムによって綴った。背景に舞踏会場や書斎、競馬場、劇場などの情景をスライドで映し交替させることによりスピーディな場面転換を図っている。そして幕切れのアンナの死の情景では白煙を立てて迫りくる機関車を動画で映写し、破滅に向かって加速度的に突き進むアンナの姿をはかなくも美しく表現している。
文:赤尾雄人
<あらすじ>
舞台は19世紀末のロシア。
青年将校ヴロンスキーは母を出迎えに訪れた鉄道駅でサンクトペテルブルグから来た美貌の貴婦人アンナ・カレーニナに出会う。
ヴロンスキーはアンナに一目で惹かれ、アンナにとってもこの出会いは忘れ難いものとなった。
厳格で保守的な夫カレーニンとの日々の倦怠から逃れるように、アンナもヴロンスキーに心奪われ、舞踏会で再会した2人は激しい恋に落ちる。
世間体を重んじ、アンナの不貞を責める夫。
アンナは欺瞞(ぎまん)に満ちた社交界と家庭を捨て、ヴロンスキーとの“破滅的な愛”に溺れていく… |
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